本研究は、従来、閑却視されてきた個々の書法教育という側面に焦点をあて、清代の書論から関連する言説を抽出し、書家や師弟を中心に具体的にどのような書法指南が行われていたのか、当時の書法教育の実相解明を目的とするものである。 2020年度は童子や初学者に対する書法指南に着目し、その展開を調査検討したが、清代中期頃から童子、初学者向けの提言が増加していく一方、やや難解な内容を含む、門弟との具体的な書法教示のやりとりを記した書論も清末にむけて微増していく傾向が確認できた。このため、2021年度は門弟との問答をまとめた書論に着目し、それらの整理検討を行った。その結果、清末に向けて出版物が爆発的に増加していくことに伴い、従来通りの書を専門とする者向けのやや専門的な技法論を中心とする書論と、いわゆる初学者向けの新規購買層を狙った書論の二極化、差別化の傾向がうかがえ、対象者を明確に意識した書論が普及していったことが想定される。 また清末民初になると、書画家らはいわゆる「社団」といわれる組織や団体を活発に設立させるようになる。このうち、清末民初における書画社団の規約に着目し、規約がどのように推移してきたかを考察し、当時の書壇の動向及び教育活動について考究した。その結果、書画の展示会やそれらの鑑賞、収蔵品の名跡の影印出版などといった活動が盛んになっていたことがうかがえ、如上の活動が1920年代の規約に新たに盛り込まれたことを明らかにした。上記の研究成果について、「国際シンポジウム 近代書壇の誕生―東アジア三地域の比較から―」(2021年8月21日、zoomによるオンライン開催)で口頭発表を行った。上記で指摘した、社団の活動は、現在の書壇に通じる点でも非常に意義深く、今後、往時の新聞記事などから各団体の活動の裏付けを試みたい。
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