研究課題/領域番号 |
18K12319
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研究機関 | 専修大学 |
研究代表者 |
ハーン小路 恭子 専修大学, 国際コミュニケーション学部, 准教授 (30733563)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アメリカ文学 / アメリカ文化 / 危機 / 情動 / 南部文学 / ポップカルチャー / アメリカ映画 |
研究実績の概要 |
本研究は20世紀以降のアメリカ文学・文化の諸形式、ジャンルや文彩が、それが生み出された時代の政治的、社会的、文化的な危機の感覚とどのようにかかわっているかを考察するものである。文学作品や映画、ミュージックビデオなど幅広いフォーマットの文化的創作物を対象として、本プロジェクトはいかに20世紀から今世紀にかけてのアメリカ文化において、人種やジェンダー、セクシュアリティ、階級、障害などアメリカ文化におけるアイデンティティの諸相が複雑に交差するなか、創作者たちがアメリカの政治的・社会的な分断状況、環境危機といった社会を取り囲む大きな危機に対して、意識的にしろ無意識的にしろ応答することにおいて、新たな文化的表現形式の創出の契機が生み出されきたことを確認してきた。本研究は主として5つの小プロジェクトに分類される。 (1)ビヨンセのヴィジュアル・アルバム『レモネード』における南部性の追求と警察暴力やハリケーン・カトリーナといった政治的・社会的・環境的な危機の関係の考察(2)カーソン・マッカラーズ、リリアン・スミス、ハーパー・リーといった20世紀南部女性作家たちによる人種隔離の主題化と、政治的連帯を希求する表現形式の追求(3)アニメーション映画『ヒックとドラゴン』における障害・男性性・人間と動物の相互依存関係(4)現代南部作家ジェズミン・ウォードの長編小説における人種、ジェンダー、環境と「ダーティ・サウス」的文彩(5)ホラー映画『キャンディマン』オリジナル版(1992)とリメイク版(2021)の比較と、インターセクショナリティ概念 各プロジェクトで取り上げる作品は書かれた年代もジャンルも異なるものだが、全体として本研究はこれらの作品の考察を通して、アメリカ文化においていかに危機の感覚が文化的創作の諸形式の創出や更新に大きくかかわっているかを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は本来であれば令和3年度をもって完了する予定であったが、前年度に引き続きコロナ禍の影響もあって、研究計画の遂行はスローダウンした。とはいえ、10月にはアメリカ文学会全国大会(オンライン)のシンポジウムで、ジェズミン・ウォードとディーリア・オーウェンズの南部環境文学についての発表を行った。そのうち、ディーリア・オーウェンズに関する部分を論文として書き直し、『現代思想』2022年2月号に寄稿した。令和4年2月には東京大学でのオンラインセミナーの機会を得て、映画『キャンディマン』のオリジナル版とリメイク版を比較する論考を発表した。これらの発表で得たフィードバックを活用しつつ、現在は各プロジェクトを単著の章にまとめるプロセスに入っている。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度中には研究の成果を単著として出版する企画がまとまり、松柏社から刊行予定である。現在過去の発表原稿や出版物をもとに、各単独プロジェクトを単著の章として執筆している。[研究実績の概要]で述べたプロジェクト(1)「ビヨンセのヴィジュアル・アルバム『レモネード』における南部性の追求と警察暴力やハリケーン・カトリーナといった政治的・社会的・環境的な危機の関係の考察」、(2)「カーソン・マッカラーズ、リリアン・スミス、ハーパー・リーといった20世紀南部女性作家たちによる人種隔離の主題化と、政治的連帯を希求する表現形式の追求」、(5)「ホラー映画『キャンディマン』オリジナル版(1992)とリメイク版(2021)の比較と、インターセクショナリティ概念」については、すでに脱稿しており、残りの(3)「アニメーション映画『ヒックとドラゴン』における障害・男性性・人間と動物の相互依存関係」(4)「現代南部作家ジェズミン・ウォードの長編小説における人種、ジェンダー、環境と「ダーティ・サウス」的文彩」を今年度中に完成させる予定である。夏休み中をめどに残りの二章を脱稿し、令和4年度中(~2023年3月)に刊行にこぎつけたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
学会発表参加費としてカウントしていた分はすべてオンライン発表となったため、次年度使用分に回すことにした。令和4年度については本研究に絡む学会発表は予定しておらず、残りの使用額は単著執筆のための資料購入に当てたいと考えている。
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