研究課題/領域番号 |
18K12320
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研究機関 | 山梨県立大学 |
研究代表者 |
畑中 杏美 山梨県立大学, 国際政策学部, 助教 (60791580)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 老い / 老齢 / ユーモア / 風刺 / 啓蒙主義 / 道徳 |
研究実績の概要 |
本研究は、「老い」をテーマとして読み解くことのできる20世紀イギリス小説における、ユーモアや笑いの要素の効用を明らかにすることである。 2018年度は、研究の第1歩として、18世紀および19世紀の小説における「老い」というテーマを設定し、研究活動に取り組んだ。とくに、18世紀小説であり、風刺文学としても名高いジョナサン・スウィフトの『ガリヴァ旅行記』、そして、19世紀の女性の人生を描いたシャーロット・ブロンテの『ジェイン・エア』から、小説作品における老いのイメージを読み解いた。 『ガリヴァ旅行記』については、作中に登場する不死の民であるストラルドブラグという人々だけでなく、バルニバービ国の大公の描かれ方等を考察した。18世紀の啓蒙主義、とくに、科学熱の影響を受け、人々の寿命が延びるかどうかについての議論があったことや、動物実験などが繰り返されていた事実からわかる、ある種機械的な人間観にスウィフトが反感を抱いていたのではないかという可能性を見出すことができた。『ジェイン・エア』については、サッカレーの『虚栄の市』にもみられるように、道徳的な退廃と精神的な老いが結び付けられて描かれているものとして考察した。一方で、作中で描かれるエドワード・ロチェスターは健康状態を回復することができる者として描かれていることから、シャーロット・ブロンテの作品においては、当時としては新しい老いのイメージが読み取れるということもできよう。この点についてはさらなる研究が必要である。 2018年度は、作品読解だけでなく、資料調査のため大英図書館に足を運び、論文等を検索し、読むことができた。またそれぞれの研究について、学会や論文等で成果を発表することができた。18世紀・19世紀小説を研究することによって、本年度から本格的に取り組む予定である20世紀小説の独自性についてより深く探求することが可能になりそうである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度の計画よりも実際の研究はやや遅れている。2018年度は18世紀・19世紀小説を中心に調査したため、年代の幅が広く、作品読解中心になり、図版等の文献が思うように集まらなかった。また、資料と作品とのすり合わせもまだ弱く、作品の成立過程や、作者が影響を受けた思想等について、さらに研究が必要である。 また、本研究は「老い」と「笑い」の双方から文学作品を読み解く試みであるため、「笑い」の要素についてさらに研究を深める必要がある。「笑い」については、イラストレーション等が多く残っているはずであるが、老いと関連付けられるものを探すとなると、更なる調査が必要である。 2019年度から所属研究機関が変更になったこともあり、自分では予想していなかったスケジュール変更もあったが、周囲の協力もあり、そういう点にはおおむね対応できていたと思われる。だが、当初予定していたよりも少し研究は遅れてしまっていることは事実であるので、翌年度はより計画的に研究を進めたい。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は、引き続き、資料調査と作品読解の両方を通して、研究を進めたい。2018年度に中心的に研究を行った18世紀・19世紀小説について不十分であった資料収集等を継続して行うとともに、2019年度からはいよいよ、20世紀小説における老いとユーモアについて本格的に研究を行いたい。 まずは、ヴァージニア・ウルフの小説『歳月』と『オーランドー』を中心に再読し、ヴァージニア・ウルフの作品におけるユーモアと老いについて読み解いていく。一方で、ノーラ・ホールトの There Were No Windows (1944)など、ウルフと同時代に活躍した作家の小説等を比較対象にし、ウルフにおける老いの独自性ということにもさらに焦点を当てて論じてみたい。 また、フェミニストでもあったウルフの評論なども再読し、当時読まれていた新聞の記事等も調査することで、当時の老いに関する言説とウルフの作品に描かれる老いの関連性についても考察する予定である。そのため、今年度も渡航しての資料調査等が必要になってくると思われる。 2018年度は、所属研究機関の都合上、9月と2月に短期間の渡航をすることになったが、2019年度は、渡航が1度になっても、もう少し長期間の滞在を通してじっくりと資料調査を進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
所属研究機関が2018年度から2019年度で変更になったため、書籍や研究資材(コピー用紙・ノート・ファイル等)の購入を取りやめたために生じた金額である。発注してから納品までの時間や、研究室退居・入居に伴い物品を移動する計画があったため、購入を差し控え、上記金額は次年度に使用しようと考えた。 使用予定のあった書籍や資材の発注を先送りする必要がに応じて、次年度使用額が生じたものであるので、この助成金は、2019年度に使用する予定があり、また、使用する必要があるものである。そのため、おもに研究書籍の購入に使用し、研究資材も必要なものを精査したうえで購入したいと考えている。
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