研究課題/領域番号 |
18K12320
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
畑中 杏美 弘前大学, 人文社会科学部, 講師 (60791580)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 老い / 記憶 / 20世紀 / 第二次世界大戦 / イギリス小説 / ヴィクトリア朝 / 回顧 / 懐古 |
研究実績の概要 |
令和2年度は、20世紀のイギリス小説における老いについて、記憶や回顧、懐古の情といった観点から考察を行った。18世紀の小説においては、死を想起させる恐怖という側面が強調される形で老いが描かれることが多かったが、19世紀の小説においては、身体的な衰弱だけではなく道徳的退廃が老いと結びつけられていた。 それに対し、20世紀の小説では、19世紀の「古き良き」イギリスを知るものとしての「老いたる者」に価値を見出していることがわかった。とくに、ヴィクトリア朝がおわり、国民意識に揺らぎが生じていた20世紀において、福音主義的キリスト教が時代精神と結びついていた19世紀のイギリス社会のありようを理想とする作家がいたことを、論文執筆をもって示した。 「古い」時代について語り、「古い」価値観の重要性を説く者が描かれるのは20世紀の作品に限ったことではない。しかし、20世紀のイギリス小説における老いがたんに衰弱や衰退としてのみ表されているというわけではなく、前時代を尊重するという視点が含まれているということを明らかにできた意義は大きい。 また、第二次世界大戦後の小説においては、戦争を含めた「過去を記憶する」ということに重要な意義を見出すべきであろう。記憶というテーマは、20世紀から現代にかけての作家の関心事であるが、そこに老いという観点を加えて考察し、論文を執筆することができた。 以上に述べたように、令和2年度は20世紀の小説についての研究を進めることができたが、現時点で、モダニズムの作家についての考察がやや不十分であるため、令和3年度はモダニズムの作家について積極的に考察を行いたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルス感染症のため、英国への渡航を断念し、作品を読解し、論文を執筆することに終始した。学会発表や研究会等の機会が激減したため、研究対象とする作品の幅が狭まるおそれがあったが、これまで研究対象としてこなかった絵本をあえて研究対象としたことで、幅広い年齢の読者に向けて書かれた作品においても、「古さ」や「老い」に関する言説を見出せるということがわかった。このような発見は、計画し予定していた発見でこそないが、本研究の幅を広げるものであったので、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は、モダニズムの時代に書かれたイギリス小説における老いについて、研究を進めたい。「概要」でも述べたように、今年度は、20世紀に書かれた作品における老いについて研究の成果があったが、第二次世界大戦後の作品を多く扱ったため、モダニズムの作家についての研究成果がやや不十分である。令和3年度は、モダニズムの作家、とくにヴァージニア・ウルフの作品についてさらなる研究を行う。新型コロナウイルス感染症の流行のため、令和3年度も英国に渡航しての資料調査等は見込めないため、引き続き、丁寧に作品を読み、考察し、論文を執筆したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の流行に終わりが見えず、予定していた英国への渡航ができなかったため、次年度使用額が生じた。国内の学会や研究会等も中止となり、移動によって生じる費用がかからなかったことにより、予算を使い切ることができなかった。令和3年度は国内にいても手に入る範囲で、逐次刊行物等の書籍を取り寄せるなどして予算を計画的に執行したい。
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