研究課題/領域番号 |
18K12324
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
古井 義昭 立教大学, 文学部, 准教授 (30815634)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | アメリカ文学 / 孤独 / 個人主義 / ネットワーク / 情動理論 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、19世紀アメリカ文学における孤独(solitude)の概念を明らかにすることにある。研究計画の初年度にあたる2018年度は想像以上の研究成果を挙げることができた。まず、Cambirdge University Press発行の学術雑誌『Journal of American Studies』誌にハーマン・メルヴィル作「Bartleby」に関する論考の掲載を決めることができた。さらに大きな研究成果として、2019年2月にはUniversity of Alabama Pressより単著を刊行できたことが挙げられる。 「Bartleby」論では、情動理論という文学理論を用いながら、本作品におけるsolitudeとlonelinessのありようについて議論している。本論は2019年中に出版される予定である。次に、刊行された単著は、孤独という概念を19世紀中葉のコミュニケーション・メディアとの関わりから論じたものである。本書は専門を同じくする研究者たちに合評会を開いてもらう機会を得て、今後の研究につながる有益なフィードバックを得ることができた。本書においては「孤独」を積極的な意味を帯びる「solitude」として提示したが、合評会を通じた意見交換を通じて、今後はネガティブな感情である「loneliness」にも注目すべきであるという方向性を確認することができた。 また、今後は「loneliness」に加えて「個人主義」という観点からも孤独の概念を研究していきたいと考えており、2018年度は個人主義に関する大量の文献調査を行った。文献調査と同時に、今後論文で取り上げたい文学作品の精読も行い、論文化に向けてのアイディアを蓄積することができた。よって当該年度は、これまでの蓄積をアウトプットしつつ、今後の研究に向けてインプットを行った年度であったと総括できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
それぞれ厳正な査読を経て、一冊の書籍を刊行し、一本の論文の掲載許可を得たことから、本研究計画は順調に進展していると言える。刊行されたもの以外にも、すでに執筆を終えて英語圏の雑誌へ投稿を済ませた論文も複数あり、アウトプットという面では充実した研究計画初年度を終えることができた。問題は査読に通るかどうかであるが、粘り強く投稿を続けてゆきたい。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画二年目に当たる2019年度は、上記で記したように孤独の概念を「loneliness」と「個人主義」という観点から検討することに集中したい。6月には日本アメリカ文学会東京支部におけるシンポジウムに登壇予定であり、メルヴィル『白鯨』について論じる予定である。また同じく6月には国際メルヴィル会議においてメルヴィル『魔の島々』についての発表も行うことが決まっている。いずれも孤独に関わる発表内容になる予定であり、研究者からのフィードバックを得ることで今後の研究に活かしていきたい。さらに、今年度は19世紀中葉から範囲を広げ、19世紀後期から20世紀初頭のアメリカ文学作品を研究対象としたい。この時期における、「個人」という単位に信を置く価値観から、「社会」という大きなシステムに取り込まれる個人という認識への移行は、孤独の概念に大きな変更を要求したはずである。社会と個人の関係を考える上で、具体的にはイーディス・ウォートンとヘンリー・ジェイムズの二人の作家を中心に検討してゆきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していたより学会出張費が抑えられたため。2019年度は学会出張が複数予定されており、そのために繰越額を含め使用する予定である。
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