研究課題/領域番号 |
18K12324
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
古井 義昭 立教大学, 文学部, 准教授 (30815634)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | アメリカ文学 / 孤独 / 個人主義 / ネットワーク / 情動理論 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、19世紀アメリカ文学における孤独(solitude)の概念を明らかにすることにある。研究計画の二年目にあたる2019年度は、2018年度に引き続き、精力的に研究成果を発信することができた。まず、Cambridge University Press発行のアメリカ研究における著名な学術誌『Journal of American Studies』に、私の研究対象であるハーマン・メルヴィルの短編「Bartleby」に関する論文を発表した。この論文はすでに二度も学術誌において引用されているなど、よい反響を得ている。
また今年度は、上記の論文で探求した、孤独に伴う「さみしさ(loneliness)」という情動的側面について研究を進め、さらなる査読論文の掲載を決めることができた。この論文は、ハーマン・メルヴィルの代表作『白鯨』における「さみしさ」というネガティブな感情を、アメリカ的個人主義の伝統のなかに位置付ける試みである。本論文は厳正な査読を経てアメリカの文学研究学術誌『Criticism』に採用され、2020年12月に掲載予定である。また、2019年6月に開催された日本アメリカ文学会東京支部シンポジウムにおいて、本論文の概要を発表する機会を得、研究者諸氏から有益なコメントをいただくことができた。
さらに、同じく2019年6月にはアメリカはニューヨーク大学で開催された国際メルヴィル学会に参加し、「メルヴィル文学におけるスペイン表象」というパネルでの口頭発表を行った。本発表では、メルヴィルのスケッチ集「魔の島々」を取り上げ、本作品における隔絶された孤独な島々が、いかにアメリカという国家の時間から切り離されているか、という点を考察した。「孤独」という概念が「時間」という概念と有機的に交錯する、というのは本発表で得られた大きな知見である。本発表は論文化に向け、現在修正中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、厳正な査読を伴う国際学術誌への掲載と掲載許可を一つずつ得ることができ、十分な研究成果を挙げられたと総括できる。また、国内外の学会にて本研究計画の成果を多くの研究者たちに向けて発表することができ、今後につながる貴重なフィードバックを得ることができた。付け加えて、すでに学術誌に投稿中の論文が2本ほどあり、まだ審査中ではあるが、今後掲載許可を得ることができれば、さらなる研究成果を期待することができる状態にある。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画最終年度となる2020年度は、メルヴィル以外の作家たちにも視野を広げ、「孤独」という問題意識を同時代の作家たちにも適用したいと考えている。昨年度、エドガー・アラン・ポーの中編小説『The Narrative of Arthur Gordon Pym』における孤独と個人主義の問題を扱った論文をアメリカの学術誌に投稿したが、査読審査の結果、修正のうえ再提出するように指示された。現在まさに加筆修正中であり、まずはこの査読に通ることを目指したい。
また、「孤独」を考える上では、対置する概念として「社会」または「共同体」を想定しなければいけないが、そうした概念は論じるにはあまりに大きすぎるので、現在のところ「家族」というより小さな共同体を考察していきたいと考えている。孤独そのものばかりを考察するのではなく、それと対置される概念を考察することで、より広い視野から孤独というテーマに光を当てることができると考えている。具体的には、ナサニエル・ホーソーンの長編小説『The House of the Seven Gables』を研究対象として考察を行なっていく予定であり、すでにその準備を進めている段階にある。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していたより図書費が抑えられたため。今年度は多くの図書の購入を予定しており、そのために繰越額を含めて使用する予定である。また、複数の英語論文の執筆を行う予定であり、英文校閲費の使用を見込んでいる。
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