研究計画の最終年にあたる2020年度は、孤独に伴う「さみしさ(loneliness)」という情動的側面についての研究を行なった。研究成果の一部として、ハーマン・メルヴィルの『白鯨』についての論文が、厳正なる査読を通過して2020年末にアメリカの文学研究学術誌『Criticism』に掲載された。また、2020年度はメルヴィルの『魔の島々』という作品についての論文も執筆し、時間と孤独の関係性についての考察を行なった。本論文は査読と修正要求をクリアし、2021年10月にアメリカのメルヴィル専門学術誌『Leviathan』への掲載が決定している。また、その他にも『J19: The Journal of Nineteenth-Century Americanists』への論文掲載、共著への論文寄稿なども予定している。 口頭発表に関しては、2020年12月に九州アメリカ文学会に招待され、メルヴィル『タイピー』についての講演を行なった。本発表は、メルヴィルによる初の長編作品における孤独な個人と共同体の問題を、のちの代表作『白鯨』へと繋げる内容であり、上記の『白鯨』論と連動している。 本研究計画の三年間を通じ、「孤独」という状態を切り口として研究を進めつつ、最終的には、個人主義に付随する「さみしさ」という内面の問題にたどり着けたのは大きな成果だったと総括できる。19世紀アメリカ文学における孤独とさみしさは必ずしも相反するものではなく、複雑に絡み合い、不可分な関係性にあるということも明らかとなった。個人主義が全盛の時代にあって、個人主義的な孤独のかげで、さみしさという否定的な感情がコインの両面のように存在していたことを詳らかにできたのは、本研究計画の大きな成果だったといえる。
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