本研究計画は本来2021年度に終了見込であったが、研究期間の一年延長を申請し、以前より計画されていたダラム大学のマーク・サンディ(Mark Sandy)教授を招いてのシェリー没後二百周年記念講演遂行の準備を進めた。また、幸運にも、分担者として参加している別の研究課題の基金をつうじて、招聘費用の大部分を負担してもらえたため、当該年度はこれまで継続中の研究テーマであるシェリーの詩学における「天上のヴィーナス(Venus Urania)」と密接にかかわる哀歌『アドネイアス(_Adonais_)』(1821)の精読研究もさらに前進させることができた。前年度より研究を進めていたとおり、詩人キーツと目される青年アドネイアス(アドナイース)の死を嘆く女神ユーレイニア(ウーラニアー)の表象をめぐり、シェリーが、先行する詩人スペンサーやミルトンらによるユーレイニアのイメージに影響を受けつつも――この考察の着想についてはE. R. クルティウスによる詩神(the Muses)のトポスをめぐる記述から大いに示唆を得ている――、その描写や役割を、当時のより「科学的」な時代精神に即して変容させており、また、同様の意識が同時期に書かれた『詩の擁護(_A Defence of Poetry_)』(1821)における詩の神性(divinity)をめぐる議論にも反映されていた、という趣旨の研究発表を5月の学会でおこない、その後、当発表の論文化準備も進めた。6月にはシェリーの詩に特有の儚いもの(mutability)と遥かなもの(eternity)をめぐる詩学について、一般向け講座にて講義をおこなった。12月には本研究計画と関連する研究成果として、メアリ・シェリー叙情詩「選択(The Choice)」(1823)における亡き愛児ウィリアムの表象をめぐるメアリ独自の叙情性についてシェリーとの比較を基に研究発表をおこなった。
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