研究実績の概要 |
2019年度の一つ目の実績は、2019年2月の米国調査で得たウラジーミル・ナボコフ(Vladimir Nabokov)に関する資料分析を進め、ナボコフ作品と視覚芸術の関係性について論文にまとめたことだ。具体的には、ナボコフの『セバスチャン・ナイトの真実の生涯(The Real Life of Sebastian Knight)』(1941)を中心に、絵画と写真といった視覚芸術と文学とが、作品の中で互いに補完し合う様を検証した。同時に、『ナボコフの文学講義(Lectures on Literature)』を取り上げ、ナボコフがマルセル・プルーストの『失われた時を求めて』の主要テーマであるプリズムと過去の回復をどのように理解していたのか考察した上で、それらプルースト的テーマがナボコフ作品のなかで、いかに受け継がれ、また乗り越えられているのかを明らかにした。 二つ目の実績としては、視覚芸術と文学の連動性に着目してきたデリダ、リカルドゥー、メルロ・ポンティなどの議論を理解する作業を進め、上の論文執筆に役立てたことだ。 2019年夏にArizona Quarterlyに掲載されたトルーマン・カポーティの『冷血(In Cold Blood)』と写真に関する論文“Photography, Unconscious Optics, and Observation in Capote’s In Cold Blood”(Arizona Quarterly, vol. 75, no. 2, 2019, pp. 37-54)が、2020年David D. Anderson Award for Outstanding Essay in Midwestern Literary Studiesの最終選考にノミネートされたことも、研究を進める上での大きな励みとなった。The Society for the Study of Midwestern Literature (SSML)が、アメリカ中西部文学研究に多大な貢献をした研究論文を評する学術賞である。
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