研究課題/領域番号 |
18K12329
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
宮澤 直美 京都産業大学, 外国語学部, 准教授 (50633286)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ウラジーミル・ナボコフ / 写真 / 視覚芸術 |
研究実績の概要 |
研究計画の通り、ジャック・デリダやメルロ・ポンティの研究をウラジーミル・ナボコフ(Vladimir Nabokov)との関係で読み直す作業を進めた。さらに、2019年の米国調査で得たナボコフの資料分析を進め、その成果を二本の論文にまとめた。一つ目の論文、“The Blindness of the Artist’s Pen in Nabokov’s Despair”では、ナボコフの『絶望(Despair)』の複数の異なるテキストを比較分析した。改訂出版される際に施された修正、余白への書き込みなどから読み取れるものは、写真的客観性やオリジナル対コピーという対立構造を否定し、むしろジャック・デリダの絵画論が提示する「見ることの盲目性」へと向かう姿勢であることなどを明らかにした。本論文は米国インディアナ大学出版のJournal of Modern Literatureから出版されることが決定した。アメリカ文学・文化研究の国際的学術雑誌として権威ある本雑誌への掲載は、本研究の大きな成果と言える。
二つ目の論文では、ナボコフ初の長編作品『メアリー(Mary)』などベルリン時代に書かれた作品に注目し、ロシア亡命者であるナボコフと写真との関連性を考察した。1920年代中葉のニュー・フォトグラフィーの動き、フォト・ジャーナリズム、ロシア系の芸術家たちとの関連を調査し、パスポート写真とアイデンティティ、移民の記憶、現実とイメージ等の観点から作品を分析した。写真の登場がモダニズム的な視線の構築と、その後のナボコフ作品の登場人物の唯我的なものの見方にどのように影響したのかを考察する論文としてまとめた。この論文は、現在、再提出のため加筆修正中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
二本の論文をまとめることができた点、さらに、そのうちの一本が米国の学術雑誌の査読審査を通過し、掲載が決定したことは大きな成果であった。コロナ禍にあり、予定していた海外での資料調査を初め、国内の資料館での調査を進めることができなかったのは残念であったが、この環境下に合わせて研究の方向性を修正し、別の資料を入手するなどして研究を進めた。 また、ジャック・デリダやメルロ・ポンティの研究をナボコフとの関係で読み直す作業を進める過程で、フランスの社会学者・批評家として知られるジャン・ボードリヤールの社会文化論について検証する必要性を認識し、その資料を読み進めた。来年度の研究に大いに役立つ知見を得ることができた。研究成果としては予測以上に進展した年であったが、海外での資料調査が実施できなかった点を鑑み、おおむね順調に進展しているとする。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策として、まず再提出が求められているナボコフと写真に関する論文の加筆修正を完了させる。査読者から参照するよう指摘された新たな資料を読み進めながら作業を進め、出版を目指す。同時に、ジャン・ボードリヤール等の批評家・哲学者の著作をさらに読み進める。ハイパーリアルな消費社会におけるイメージ、メディア、写真等にまつわる社会文化論を明確に把握した上で、20世紀中葉のアメリカ文学と視覚芸術や写真との関係を再考する。具体的には、カポーティの短編小説、J.D. サリンジャーの作品を取り上げる計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では、令和2年度は資料調査のため、海外の資料館への調査旅費を執行する予定であった。しかし、新型コロナウィルス感染症の影響で、海外のみならず国内の資料館・図書館での資料調査さえも実施できない状況となった。また学会等もオンライン開催に変更され、旅費を執行できなかったことが、次年度使用額が生じた理由である。
調査を予定していた海外の資料館では、新型コロナウィルス感染症の影響下での研究サポートとして、資料を新たにデジタル化し、研究者に提供するというサービスが検討されている。令和3年度は、こうした新サービスを利用し、海外の資料を物品として入手しながら、新たなかたちで研究を進めていく計画である。
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