研究課題/領域番号 |
18K12337
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研究機関 | 石川工業高等専門学校 |
研究代表者 |
小松 恭代 石川工業高等専門学校, 一般教育科, 教授 (70710812)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 強制収容 / 児童文学 / 日系アメリカ人 / ヨシコ・ウチダ |
研究実績の概要 |
ヨシコ・ウチダの児童向け強制収容物語、Journey to TopazとJourney Homeは市民権剥奪や人種差別への批判が弱いと思われるが、これはアメリカ社会を考慮した出版社側の意向を反映しているという申請者の仮説を検証した。オレゴン大学ナイト図書館やカリフォルニア州立大学バークレー校のバンクロフト図書館に行き、ウチダの寄贈資料の中からこの二作品に関する彼女と出版社とのやり取りや書評、彼女のメモを調査した。その結果、出版社やニューヨーク・タイムズの書評者、アジア系アメリカ人達もウチダの作品はアメリカ政府への批判が弱いと感じていたことがわかった。また、ウチダのメモから、出版社の意向ではなく、彼女自身がアメリカ政府への批判や恨みではなく、強制収容を耐え抜いた日系人たちの歴史を描きたかったことが明らかになった。アジア系アメリカ人運動を進める人々から「白人寄り」であると見なされ、ウチダが原稿を修正していたこともわかった。 ウチダの資料から、Journey to Topazがアメリカのテレビ局からドラマ化されており、アメリカの負の歴史を伝える出来事として、文学作品とともに主流社会にインパクトを与えたことが確認できた。 サンフランシスコ公共図書館で、強制収容の児童・思春期文学の作品について調査した。1945年の最初の強制収容物語、The Moved-Outers及び作家のフローレンス・クンネル・ミーンズについての資料を収集した。この物語は、彼女がコロラド州に戻ってきた日系人から聞いた収容体験談がもとになっていることがわかった。その他、この作品に関する批評文献を収集した。 アメリカの図書館に出向くことにより、初期の強制収容物語について貴重な資料を収集し、新たな知見を得ることができた。収集したヨシコ・ウチダの資料にもとづき、彼女の強制収容体験とその作品について学会発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
予想以上にアメリカの大学図書館に所蔵されているヨシコ・ウチダの資料が多かった上に、夏休み中で図書館の利用時間が短かったために全部の資料に目を通すことができなかった。残りの資料内にもウチダの収容物語に関する書評などの貴重な資料があるかもしれないと感じている。 サンフランシスコ公共図書館で強制収容の児童・思春期文学作品を調査し、ジャンル、出版年や作者のエスニシティによってリスト化し、強制収容物語の出版物の全体像をつかむ予定であったが、滞在時間の関係上、全体像をつかむところまではいかなかった。
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今後の研究の推進方策 |
アメリカの大学図書館での調査は今年度限りの予定であったが、来年度もう一度図書館に出向いて残りの資料を調査する予定である。ウチダの収容作品においてアメリカ政府への批判が弱い理由が彼女自身の意思によるとわかり、その後の他の作家による収容物語とウチダの作品との関連を見直す必要が出てきた。他の作家の作品について書評等の資料を図書館で収集したいと考えている。 また、調査の過程で、ウチダには出版までこぎつけなかった収容物語があることがわかった。ウチダ・ヨシコのJourney to TopazとJourney Homeの執筆意図を分析するには、この作品を読んでみる必要があると思われる。原稿がバンクロフト図書館に所蔵されているので、この作品を分析した上でウチダの強制収容物語についてもう一度検証する。 サンフランシスコの公共図書館で、日本では入手できない収容物語の作品について調査を進める。また、日系以外のマイノリティ作家は、自分たちの民族の人種差別や迫害の歴史と関連付けて収容物語を描く傾向がうかがえるため、この点について図書館で文献を収集し、それに基づき分析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
アメリカの大学図書館で収集した資料の分析過程において、もう一度資料を確認する必要が出てきた。ヨシコ・ウチダの児童向け強制収容物語を分析するにあたって、出版に至らなかった作品のナラティブを検証する必要があると思われる。この作品との比較において彼女の収容物語を検証するほうが重要であると認識した。そのため、再度オレゴン大学とサンフランシスコ州立大学バークレー校の図書館に行き、ウチダの資料を調査する。 また、滞在期間の関係で、日本では入手できない強制収容物語を調査する時間が足りなかった。もう一度サンフランシスコ公共図書館で調査し、強制収容の児童・思春期文学作品のリスト作成を行う。それとともに他の作家の強制収容物語に関する文献や書評を図書館で収集する。
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