研究課題/領域番号 |
18K12337
|
研究機関 | 福井県立大学 |
研究代表者 |
小松 恭代 福井県立大学, 学術教養センター, 教授 (70710812)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 強制収容 / 児童文学 / 日系アメリカ人 / 人種差別 / 砂漠表象 |
研究実績の概要 |
日系アメリカ人の強制収容に係わる約15の児童・思春期文学作品の分析を行った。 フローレンス・C・ミーンズのThe Moved-Outers(1945)は戦争情報局制作の「日系人の転住」におけるパイオニア言説に沿った収容物語であることを明らかにし、この作品との関連で、日系作家のジュリー・オーツカのWhen the Emperor Was Divine(2003)とシンシア・カドハタのWeedflower(2006)を分析した。ミーンズは収容所のあった砂漠をアメリカ建国と関わる「フロンティア」として描いているのに対し、オーツカとカドハタは砂漠を人種差別を象徴する場として描いていると分析した。両作品は同時多発テロ事件(2001年)直後のアラブ系やイスラム系のアメリカ人への排斥運動が起きた時代に出版されている。これら3つの作品においては、アメリカの歴史社会的状況が強制収容の児童・思春期文学に反映されていると考察した。 白人作家の作品では、アン・エメリーのTradition(1946)やサンドラ・ダラスのRed Berries White Clouds Blue Sky(2014)は国家による不正を批判しているというよりも、「良きアメリカ市民」としての道徳的な振る舞いを人種差別や強制収容から読者に考えさせる作品であると分析した。強制収容を日系人の視点から十分に描いてはいない。日系少女と白人少女の友情物語であるマーシャ・サビンのThe Moon Bridgeには、強制収容を市民権剥奪や人種差別の点から問題化する視点があるが、日系少女の収容所での体験はあまり書かれていない。デイビッド・パトノードのThin White Walls(2008)は、日系少年の真珠湾攻撃から強制収容所体験までを描いた作品であり、スチュワート・H・D・チンの理論に従えば本物の多文化主義児童文学と呼べると分析した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
オレゴン大学ナイト図書館、UCバークレー校のバンクロフト図書館、サンフランシスコ公共図書館を再度訪れ、ヨシコ・ウチダの収容物語の分析のための資料収集と、現在までの強制収容に係わる児童・思春期文学作品の出版年や作家のエスニシティによるリスト化を行った。これにより本研究の基礎となるヨシコ・ウチダの収容物語の分析を終えることができ、その後はこの分析をもとに他の作家の作品の検証を進めることが可能となった。現在、リストの約半数以上の文学作品の分析を終えている。
|
今後の研究の推進方策 |
最終年度は強制収容の児童・思春期文学作品の分析をさらに進め、複数の論文にまとめる。これまでの調査から、グラフィックノベルの形式で描かれた収容物語があることがわかった(Mystery in ManzanarやGaijin: American Prisoner of War、They Called Us Enemy等)。これらの作品の分析は専門領域外で困難なため、論文では作品の紹介だけにとどめたい。 当初の計画では作品を時代ごと(1980年代、1990年代、2000年代、2010年代)に分類して各時代の歴史文化的背景との関連から収容表象の特徴を検証し、その変容を総括する予定であった。しかし、各時代区分に作品数の偏りが見られること、この方法では上手く分析できない作品があるという理由のために、歴史文化的背景との関連の分析はひとつの方法として用いたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、強制収容や児童文学に関する書籍の在庫が国内になく海外のサイトから古書を購入せざるをえなかったが、その価格が思っていたよりも安価だったからである。 来年度の助成金は、論文作成のために必要な図書の購入と11月末に開催予定の英語圏児童文学会の総会出席(研究発表を予定)の旅費に使用する。
|