研究課題/領域番号 |
18K12337
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研究機関 | 福井県立大学 |
研究代表者 |
小松 恭代 福井県立大学, 学術教養センター, 教授 (70710812)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 強制収容 / 児童文学 / 日系アメリカ人 / 人種的ヒエラルキー / 多文化児童文学 |
研究実績の概要 |
今世紀に出版された日系アメリカ人の強制収容をテーマとした児童・思春期文学の約20作品について分析を行った。本や絵本に加えて、グラフィック・ノベルも分析対象とした。家族が強制収容を体験した日系人の作者が多いが、白人やヒスパニック系の作者もいる。強制収容の体験者はThey Called Us Enemyの作者の一人、ジョージ・タケイのみであり、作者のほとんどが歴史的資料等の調査をもとに強制収容物語を書いている。 表象方法に注目すると、約20の作品は主に次の3つのカテゴリーに分けられると思われる。①ジュリー・オーツカ、キク・ヒューズ、ロイス・セパバーンのように、強制収容を体験者だけではなく後の世代にも影響を与えるトラウマ記憶として描いている作品。②カービー・ラーソン、デイヴィド・パトノード、サンドラ・ダラスのように、真珠湾攻撃から強制退去・収容という歴史的事実にそって描いているが、日系人のアメリカ化や主流社会への同化に焦点を当てている作品。③シンシア・カドハタ、アン・タトロック、ウィニフレッド・コンクリングのように、日系人の強制収容を他の人種/エスニックマイノリティの抑圧体験との関連で問題化している作品。その他、ケン・モチヅキやエミリー・リータイのように、子供の収容所での体験を絵本で表現した作品もある。 これらの作品のうち、ペットという子供たちに身近な存在をプロットの中心に据えているロイス・セパバーンのPaper Wishesとカービー・ラーソンのDashを、スチュアート・H・D・チンの多文化児童文学のオーセンティシティの基準―多様性の容認・肯定と社会における権力構造/力関係への意識―に沿って検証し、セパバーンの作品は日系少女が被った多重の抑圧を描いているのに対し、ラーソンの作品は主流社会への同化志向の作品であると考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今世紀に発表された児童・思春期文学の強制収容物語における表象の特徴を分析するだけではなく、テーマに関連する論文を2本学会誌に投稿するつもりでいたが、3月末までに1本しか書き終えることができなかった。コロナ問題で遠隔授業となったために授業の準備に時間がかかり、研究にあまり時間が取れなかったことがその原因である。
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今後の研究の推進方策 |
研究の延長が認められたので、令和2年度の研究をもとに本研究の総括を行う。まずはロイス・セパバーンのPaper Wishesとカービー・ラーソンのDashに関する論文を学会誌に投稿する。今世紀に書かれた児童向けの強制収容物語には、強制収容を他の人種/エスニック・マイノリティの抑圧体験との関連で描くという一つの特徴があると思われる。この点について研究をさらに進める。特に、9/11の同時多発テロ事件後にアメリカ社会から排除の標的になったアラブ/イスラム系のアメリカ人の子供たちの物語と強制収容物語との関連について検証・考察し、論文にまとめるつもりである。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度は遠隔授業の準備に時間を取られたために計画通りに研究を進めることができなかった。助成金補助期間の延長が認められたので、令和2年度からの研究を継続して行うつもりである。研究に必要な書籍費や調査費としてこの助成金を使用したい。
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