研究課題/領域番号 |
18K12338
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
中村 寿 北海道大学, 文学研究科, 専門研究員 (40733308)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ドイツ文学 / 中・東欧近現代史 / ユダヤ研究 / ナショナリズム / 『自衛』 |
研究実績の概要 |
『自衛―独立ユダヤ週刊新聞』(1907~1938)は、プラハを拠点として活動していたドイツ語によるユダヤ人新聞である。この新聞が創刊される背後には、1907年に実施された「普通選挙法」にもとづくオーストリア帝国国会選挙があった。この選挙では、諸民族が民族ごとに代表を選出する民族別議席制が採用されている。ただし、ユダヤ人には民族としての議席は設置されなかった。ユダヤ民族は<ユダヤ教徒>として諸民族に含まれるべきであると考えられた。この状況に対して、『自衛』はユダヤ民族の議席を要求し、国会への、その利益代表者の派遣を計画した。結果的に、『自衛』は四名のユダヤ民族の代表派遣に成功している。今年度は、昨年に引き続き、帝国国会に民族別代表制が採用されるにいたるまでの議論を記述しているハルマッツ『ドイツ系オーストリアの政治』の読解を進めた。今年度、ハルマッツの研究を通じて明らかになった新しい知見を以下に挙げる。 ①民族自治の構想。1848年当時から、歴史的な国内国境線にもとづいて多民族国家を州に分割する連邦構想は存在した。しかし、諸民族は州境線をまたがって混住している。それゆえに、歴史的な州境線にもとづき、その領域内に自治を導入するだけでは、民族対立は解消されなかった。民族別議席制は領域を単位とする自治への反省による成果である。 ②「仲介語」としてのドイツ語の可能性をめぐる議論。ドイツ語はオーストリアの事実上の「国家語」であった。それに対して、その他の諸言語には「領邦語」の地位しか与えられていない。社会民主主義は言語間の地位の差異に民族対立の原因を求めた。社会民主主義はドイツ語に「国家語」に代わる「仲介語」の可能性を展望してした。上記の知見は、口頭発表一件と論文一件を通じて公開された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでの『自衛』の研究を通じて、その創刊の背景には、オーストリアに民族自治の導入を目指す議論があったことを明らかにすることができた。ハルマッツの著作には、民族対立から民族自治にいたるまでの過程が詳述されていた。ハルマッツの読解を進めることはできた一方で、『自衛』については、それほど進まなかった。2019年度は、『自衛』の読解を進めていく。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は、反ユダヤ主義に対する『自衛』による実践活動の解明を主軸に、『自衛』の読解を進める。『自衛』において取り上げられている反ユダヤ主義には、ヒルスネルに対する恩赦の却下(1909年)、ベイリス訴訟(1912年)などがある。この二つの裁判はいずれも、ユダヤ人によるキリスト教徒殺害の疑いに関わっていた。2019年度は、まず儀式殺人をめぐる文献の読解を進める。儀式殺人についての基本的情報を押さえたのち、儀式殺人の訴訟をめぐる記事から、反ユダヤ主義に対する『自衛』の取り組みの諸相について記述する。最終的には、反ユダヤ主義に対する『自衛』の取り組みから、ナショナリズム新聞としての『自衛』の活動内容を明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)2018年度、海外図書館にて文献収集の予定があった。しかし、多忙のため、海外出張を設定することができなかった。今後も海外出張についてはその調整が難しい可能性がある。そのため、出張費をマイクロフィルム、フィルムリーダーの購入にあてることを検討している。 (使用計画)海外出張、マイクロフィルム、フィルムリーダーの購入を計画している。
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