研究課題/領域番号 |
18K12339
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
前之園 望 中央大学, 文学部, 准教授 (20784375)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アンドレ・ブルトン / シュルレアリスム / ポエム=オブジェ / フランス20世紀詩 / プロジェクションマッピング |
研究実績の概要 |
本研究はアンドレ・ブルトンによるポエム=オブジェ作品に固有の詩学とその射程を明らかにすることを目的とする。本研究では既に、初期のポエム=オブジェ作品において方向づけられた詩学の特性が後年のブルトンの散文作品において十全に開花していることを明らかにした。ブルトンがポエム=オブジェの制作を通じて模索していた新しい詩学の、出発点と暫定的な到達点を示したということである。 本年度は、この出発点と暫定的到達点とをつなぐ詩学の変遷を詳細に確認した。1935年のポエム=オブジェで得られた詩的描写の原理は『狂気の愛』(1937)で明文化され、現実世界に介入するブルトンの詩的言語は新境地に達する。その成果が1937年1月17日・18日に制作されたポエム=オブジェで発揮されているのである。この二作品はポエム=オブジェ作品としては非常に珍しい「連作」と考えられ、その特徴は、どちらの作品もそれぞれ二通りの読み方ができる、いやむしろ二通りに読むように鑑賞者が誘われているという点である。文字領域と物質領域の精緻な分析から、1月17日・18日それぞれのポエム=オブジェ作品が、詩集『水の空気』(1934)の世界、『狂気の愛』の世界の二つの世界を〈同時に〉体現していることが明らかになった。1935年の時点では物質的現実の上に投影される詩的現実はひとつだけだったが、1937年では同一作品の上に複数の詩的現実を投影することが可能となった。『秘法17』(1945・1947)においては、ロシェ・ペルセの岩場の上に複数の詩的現実が立ち上がるが、そのためには1937年のポエム=オブジェにおける試行錯誤が不可欠だったのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の大きな目標のひとつが、ポエム=オブジェをブルトンの詩学の変遷の中に位置づけることであるが、ポエム=オブジェ制作の実験を通して得られた知見をブルトンが自らの作家活動にフィードバックし、その結果得られた新たな視点をまた次のポエム=オブジェ制作において試していることが明らかになったことは、本研究にとって大きな成果であった
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今後の研究の推進方策 |
ポエム=オブジェをブルトンの詩法の変遷の中に位置づけ、ブルトンの詩学を総合的に解き明かすために、引き続き個別の詩作品の分析等の基礎作業を通して、特に1950年代以降のポエム=オブジェ作品をどうとらえるべきか再検討する。1950年代以降のポエム=オブジェ作品は、それ以前の作品とその特性に断絶が生じる。1940年代までのポエム=オブジェにおいては、当初独立して並列していた文字領域と物質領域が、時間の経過とともに細分化され、次第に混ざり合い、相互浸透を起こすという傾向があった。しかし、50年代以降のポエム=オブジェにおいては、文字領域が極端に縮小され、こうした相互影響関係は希薄になる。当初の定義からも外れているように思われる作品をブルトン自身がポエム=オブジェと呼んでいることにどのような合理的な説明が可能かを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
書籍の納品時期が間に合わなかったため。次年度物品費として使用予定。
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