本研究は、児童文学作家として知られるエクトール・マロの社会派小説に注目したものである。『義弟』と『シャルロットの夫』は、強制入院制度を批判すべくマロが発表した小説である。そこでは理性を体現する光と狂気を表す闇が交錯し、「明晰なる狂気」と呼ばれる病が文学的に描かれている。またマロは実在の事件から着想した『クロード医師』『良心』『正義』のほか、『ジュリエットの結婚』と『義母』で犯罪を取り上げている。そこでは犯罪者は闇や未開の比喩で描かれ、近代司法の光に容赦なく追い詰められている。二極化した世界での少数派の苦しみに独自の光を当てられていること、それがマロの社会派小説の特徴であることを本研究は示した。
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