研究課題/領域番号 |
18K12342
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
林 千宏 大阪大学, 言語文化研究科(言語文化専攻), 准教授 (80549551)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | エンブレム / エクフラシス / 鏡 / ルネサンス / フランス詩 / 恋愛詩 |
研究実績の概要 |
初年度の計画としては、この期間にレミ・ベローの作品『牧歌』の構造とその出版形態との関係を明らかにすることを目標としていた。この問題についての成果が、2018年8月出版の『ロンサール研究』31号掲載の「レミ・ベローにおける牧歌の詩学―『牧歌』(1565)を中心に―」である。この論文において、レミ・ベローの『牧歌』において「時間」がどのように扱われているかに注目し、その多様な時間表象が、作中の主人公たる「私」の芸術作品を鑑賞する行為といかに密接に結びついているかを明らかにした。この行為が我々読者の作品を鑑賞する行為(『牧歌』を読む行為)ともパラレルをなすことによって、作品中の多様な時間が芸術作品の創作および鑑賞には分かちがたく関係していることを明らかにするのが『牧歌』たる作品の特徴の一つであることを明らかにしている。 さらに、2018年度5月には、大阪大学言語文化研究科「言語文化研究プロジェクト」による『表象と文化XV』において、「鏡とエンブレム―セーヴ、ロンサール、ベローにおける鏡のモチーフ」と題し、フランス・ルネサンス期の三人の詩人セーヴ、ロンサール、ベローにおける鏡の表象を検討することで、このモチーフが同時代に流行したエンブレムとどのように関係しているかを明らかにした。三人の詩人の中でエンブレムの創作に取り組んだのはセーヴのみであるが、実はロンサールの『恋愛詩集』に掲載された詩人自らと想いを寄せる恋人の肖像画がエンブレムの作法に深く影響を受けており、またその鏡面構造ともどもセーヴの作品における鏡のモチーフとも多くの共通点があることを明らかにした。さらにこの二人の作品に続くベローの『牧歌』においても、美術工芸品としての意匠を凝らした鏡が登場するが(図像は存在しない)、セーヴ、ロンサールの作品とは、どのような点が共通し、またどのような点で異なってきているかを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度での研究計画は、予定していた論文2本を発表することができ、おおむね予定通りに進行しているといえる。何よりもこれら論文は、本研究の主題である「フランス・ルネサンス文学における芸術作品の解釈・鑑賞行為の表象」をまさしく扱ったものであり、セーヴ、ロンサール、ベローという3人の重要な詩人の作品における芸術作品の鑑賞の在り方の表象について、興味深い特徴を明らかにすることができた。引き続きこれらの詩人に加え、同時代の別の詩人(例えば、ロンサールと近い関係にあるデュ・ベレーなど)にも目を配りつつ、検討を続けていきたい。 また海外の研究者との意見交換については、2018年度より準備を始めており、まず2019年4月にスイスの研究者を研究代表者の所属する大阪大学に招聘し、講演および意見交換を行う予定であったが、当該研究者の健康上の理由により急遽取りやめとなった。そのため改めて今年度中に招聘することを考えている。また10月には、同じくスイスより別の研究者を大阪大学に招聘し、講演会と同時に研究打ち合わせを行う予定である。いずれもルネサンス・フランス文学という研究分野での第一人者であり、すでに研究代表者の成果を送付し、研究打ち合わせの準備も行っているところである。 さらに日本国内での研究者との打ち合わせについては、定期的に同じ分野の研究者と16世紀のテクストの読書会を開くことで意見交換を行い、また年に一度国内外から16世紀フランス文学の研究者を集め学会を開催、研究発表会や読書会を行うことで、常に最新の成果に触れられるように努力している。今年度も引き続き、上記の活動を行っていきたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定において、初年度および2年目にはレミ・ベローの作品『牧歌』の構造とその出版形態との関係を明らかにすることを目標としていた。先にも述べたように、すでに初年度に2本発表した論文において、その一部が達成できたと考えているが、今後必要となるのは、フランス国立図書館での16世紀の印刷本の参照である。すでにフランス国立図書館(Bibliotheque nationale de France)所蔵の印刷本についてはサイト(Gallica : https://gallica.bnf.fr/)上で多くが公開されているが、16世紀に出版された書物は数多く、いまだにインターネット上に公開されていないものも存在する。こうした書物を直接参照するとともに、すでに公開されている書物についても、その実物を手に取り検討することによって、詩人ベローがどのような意図をもってこの作品を創作したのかを、より具体的に分析していきたい。さらに今年度は、海外の研究者を積極的に日本に招聘し、意見交換を行うとともに講演会やワークショップなどを開催することで、同じ分野を研究する日本と海外の研究者と意見交換を図っていく。 さらに3年目以降の目標としていた、16世紀前半の詩人とりわけモーリス・セーヴやクレマン・マロ、さらにはジョアキム・デュ・ベレーの作品研究にも着手していく予定である。現在中心的に研究を行っているベローの作品を詳しく分析すればするほど、彼がどのような詩人たちから影響を受け、またどのような詩人たちとともに作品を創作していたのかという知識が不可欠であることを痛感している。今年度はベローの作品の理解を深めるためにも、予定を少し前倒しをし、こうしたほぼ同時代の詩人たちとの比較対照を積極的に行っていこうと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度にフランスに赴き研究調査を行う予定であったが、本務校業務のために十分な期間を確保することができず、やむなく渡仏計画を2年目に延期することとした。それに伴い旅費支出分が大幅に少なくなり、当初申請していた使用額に届かない状態となった。さらに同様に初年度に計画をしていた研究者の招聘計画についても、研究者の予定が合わず、2年目にずれ込むことになった。そのため、旅費、人件費・謝金の支出区分で予定していた金額に届いていない。 こうした事態を受けて、2年目である2019年度には海外からの研究者を2名招聘する予定であり、さらには研究代表者も渡仏し、初年度に計画していた調査研究を進めていく予定である。加えて、初年度には本務校での耐震化工事の影響で購入することのできなかった書籍全般についても購入し、研究環境をととのえるべく計画している。
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