研究課題/領域番号 |
18K12342
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
林 千宏 大阪大学, 言語文化研究科(言語文化専攻), 准教授 (80549551)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ロンサール / 『恋愛詩集』 / ソネ / エピグラム / エンブレム / セーヴ / 『デリー』 |
研究実績の概要 |
本年度の研究実績は、大阪大学言語文化研究プロジェクト成果報告書『表象と文化XVII』に発表した論文「エピグラムからソネへ――ロンサール『恋愛詩集』(1552)を中心に」および、その内容をさらに発展させた口頭発表「ロンサール『恋愛詩集』(1552)における視覚について」(日本フランス語フランス文学会2020年度秋季大会ワークショップ)である。いずれも詩人ロンサールの初期の代表作である『恋愛詩集』(1552)を対象とし、この詩集における読者の視覚の役割の重要性を論じた。この詩集では、「目」「まなざし」「視線」のモチーフが多用され、同時に新しいメディアたる印刷本という媒体が読者の視覚をも刺激すべく巧みに構成されていることを指摘。またソネという詩形のフランスでの受容と創作にも注目し、ロンサールの前の世代の詩人セーヴがエピグラムという詩形と図像を、自らの『カンツォニエーレ』たる『デリー』に導入していること、さらにその4年後に発表されたトマ・セビエの『フランス詩法』でもその考えが踏襲されていることに着目した。そしてロンサールもソネのエピグラムとしての側面を意識していたことは、彼が冒頭の詩「誓願」の活字組で碑文を模していることからも明らであると考え、ロンサールが自らのソネで恋愛における目、まなざしの役割を歌うとき、同時に詩と図像の比較、つまりは文字という記号と図像という記号に対峙する目の働きの比較を、印刷本としてのソネ集『恋愛詩集』内に持ち込んでいたことを明らかにした。 この研究によって、詩人ロンサールやセーヴが、何よりも読者の視覚を意識しつつ新たな印刷の時代の詩集の可能性を切り開いていったことを明らかにでき、さらにはこれまで研究を行ってきたレミ・ベロー作品、とりわけ『牧歌』における美術工芸品の描写(エクフラシス)との影響関係も浮かび上がってきたと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定においては、令和2年度にはフランス国立図書館に赴き資料調査を行い、またスイス、ヌーシャテル大学のルネサンス研究者ロリス・ペトリス氏を招へいして、国際的な研究交流も行うことを想定していたが、新型コロナウィルスの感染拡大を受け、渡欧や来日といった国際交流活動が一時的に停止せざるを得なくなった。このため、こうした資料調査および国際交流活動においては、やや遅れが生じている。 一方で、研究活動そのものは、詩人モーリス・セーヴの作品とロンサールの作品との繋がり、またエンブレム本との関係などについての研究が進み、おおむね予定通りに進捗していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策について、まず国際的研究交流活動については新型コロナウィルス感染拡大状況次第であるものの、ヨーロッパの研究者とは連絡を保ちつつ、令和3年度中の招聘を引き続き考えている。同時にそれがかなわなかった際のオンラインでの交流なども計画している。またフランス国立図書館での文献調査に関しても、難しい状況が今年度も続くと予想している。もちろんフランス国立図書館のウェブサイト、ガリカ(https://gallica.bnf.fr/)でも、多くの文献が閲覧できる状況にある。ただ、読者の受容の在り方を中心に探る本研究を進めるにあたってはやはり当時の文献を手に取り検討を行いたいと考えるため、こちらも可能な限り渡仏の可能性を探っていきたい。 また研究内容については、今年度はこれまでの年度で行ってきた研究を参照しつつ、それぞれの研究において対象とした作品を比較対照していく予定である。その際に中心となるのがセーヴ『デリー』(1544)、ロンサール『恋愛詩集』(1552)、デュ・ベレー『ローマの古跡・夢』(1558)、ベロー『牧歌』(1565)であり、さらにここにロンサールの1560年版全集に収録されたベローによる注釈も含めて検討をしていきたいと考える。これらの研究によって、16世紀フランス中期の詩集における読者の役割の一端が明らかになると考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
既に述べたことであるが、令和2年度は新型コロナウィルスの全世界的な感染拡大によって、あらゆる学会が中止あるいはオンライン開催となり、また調査研究ができなくなってしまったために、旅費を使用することがなかった。そのために、計画に比して大幅な次年度使用額が生じた。
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