研究課題/領域番号 |
18K12342
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
林 千宏 大阪大学, 言語文化研究科(言語文化専攻), 准教授 (80549551)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | モーリス・セーヴ / 書物の歴史 / グロテスク / エピグラム / 縁飾り |
研究実績の概要 |
当初に想定していた4年目の研究では、同時代のエンブレム本の影響を受けて創られている抒情詩を引き続き対象とし、とりわけ16世紀前半の詩人マロ、セーヴからプレイヤッド派の詩人たちの作品を経て、いかにして16世紀後半の詩人デュ・バルタスの『聖週間』へと繋がっていくのかを明らかにする予定であった。この計画に従い、本年度特に取り上げて考察を行ったのはモーリス・セーヴの『デリー』である。なかでもこれまでほとんど研究されることのなかった図像の縁飾りについての考察を書物の歴史、同時代の建築・美術史からの視点、また作品テクストとの関連において行った。そして『デリー』図像の縁飾りが、多様な要素の混交性を象徴しているということ、すなわちまずその縁飾りそのものが異種混交の典型たるグロテスク模様、とりわけフロリス様式に近いことを指摘、その様式の特徴である2次元の平面へのある種の距離、平面に対する問題意識が、印刷本でどのようにページを構成するかという意識にもつながっていることを指摘した。さらに他の混交性として、まず縁飾りと中心の図像の組み合わせ、また図像のモットーのテクストへの挿入による混交なども指摘、この混交性の源泉がホラティウスのいわゆる「詩論」の意図的な誤読にあり、あえてホラティウスに背くことでセーヴは印刷本の時代の新しい詩集の在り方を示したのではないか。そのことが端的に示しているのが、この縁飾りの意匠であると結論づけた。本研究で明らかとなったのは、『デリー』図像の縁飾りといういわば絵画とテクストとの「境界」を検討することによって、『デリー』がこれまで考えられてきた以上に同時代の美術作品の影響を受けており、また作者セーヴが同時代の芸術動向をいかにページ構成に取り入れるかを綿密に考えていたということである。デュ・バルタスなど16世紀後半の叙事詩へのつながりについては改めて今後考察を行いたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本来研究の4年目には16世紀前半の詩人たち(マロ、セーヴなど)からプレイヤッド派の詩人たちの作品(ロンサール、ベローなど)にみられる美術工芸品の鑑賞行為へとを経て、いかにして16世紀後半の詩人(デュ・バルタス)の『聖週間』にみられる世界の鑑賞行為へとつながっていくかを考察する予定であり、さらにはそれが16世紀から17世紀へと至る詩作品においてどのような流れを作り出しているかを総括する予定であった。しかしコロナ禍による移動の大幅な制限により予定していた渡仏や、ヨーロッパからの研究者の招聘を行うことができていない。こうした交流活動の停止によって、当初想定していたほどには研究を進められていない。とはいえ、今後の状況次第でこうした交流活動も再開できると考えられるため、引き続き計画を続けていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、現在までの進捗状況でも記した通り、まずはコロナの感染拡大状況および渡航規制の緩和を注視しつつ、渡仏の可能性を探るとともに海外の研究者の招聘活動についても引き続き計画を進めていきたい。 もちろん、状況は非常に流動的であるため、こうした活動が再開できない可能性も踏まえて、オンラインでの国際的な研究交流会に参加するなどして、意見の交換をも図っていく。 もちろん日本国内での研究も続けることは言うまでもない。既にこれまで行った研究においては、16世紀前半のフランスの詩を取り上げ、検討してきた。その結果として16世紀前半から半ばにかけてのフランスにおけるエピグラムという詩形、ソネという詩形の親近性に改めて気づくとともに、ここに美術工芸品の描写詩と、ページに挿入された図像(挿絵)もが深くかかわっていることが見えてきている。こうした、エピグラム・ソネ・美術工芸品の描写詩が、16世紀後半に至り、どのような作品群を生み出し、文学史を形作っていくのかを引き続きの課題として、研究を続行していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度に引き続き、コロナ感染症拡大が見られ、渡航規制等があったため、海外への出張および海外からの研究者の招聘活動を行うことができなかったため。
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