当該年度は、16世紀フランスの詩人、レミ・ベローの代表作『牧歌』を取り上げ、その初版および第2版を比較検討することで、それぞれの作品の特徴を明らかにするとともに、建築や美術工芸品の描写がこの作品のそれぞれの版においてどのような役割を果たしているのかを精緻に分析した。その結論として『牧歌』の初版は美術工芸品の描写(エクフラシス)を中心に据えて、一貫した構成を持つものの、第2版においては、作品そのものの性質が変容しており、むしろベローを中心とした詩人たちのコンピレーションとしての側面が強くなっているとした。 これまでの研究期間を通じて、このような美術工芸品の描写やその鑑賞の表象について研究をしてきたが、モーリス・セーヴ、ピエール・ド・ロンサールそしてレミ・ベローの作品を中心としてそこに現れる絵画、図像、建築の描写とそれらの鑑賞の描写を具体的に分析することで、当時の抒情詩集においては、こうした美術工芸品の描写が、いかに密接にソネやエピグラムといった詩の形式・ジャンルと結びついているかを明らかにした。またこうした美術工芸品や建築が書物のアナロジーとして機能し、また書物自体がそのページ構成や活字、挿絵、さらには飾り文字や帯状装飾に至るまで入念に作り上げられることで、作品の読解に重層性をもたらしていることを明らかにした。そして1540年代の作品以降でとりわけ顕著にみられるこうした特徴が、その後のフランス詩の展開に大きな影響を与えているのではないかという結論に達した。
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