研究課題/領域番号 |
18K12343
|
研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
犬飼 彩乃 首都大学東京, 人文科学研究科, 助教 (70622455)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | ドイツ文学 / オートフィクション / ポストモダン / 現代文学 / フェイク / デジタル文学 / 多層性 |
研究実績の概要 |
2019年度は、クレメンス・J・ゼッツの小説『インディゴ』内の事実と虚構を調べる作業をひきつづき行いながら、クレメンス・ゼッツ・シンポジウムを企画、首都大学東京で開催した。 『インディゴ』における事実の扱い方に関しての調査は翻訳と並行して行うことで、非常に細かいところまで調査を進めることができた。単純な引用や知識の援用だけではなく、事実の捏造や偏向した引用など細かな細工が行われていることがわかった。当作品を翻訳中であることから、現代ドイツ語圏文学の翻訳経験者としてベルリンで翻訳者会議に出席し、近年のドイツ語圏文学の動向に関して各国の翻訳者と意見交換を行うことで新しい知見を得たほか、ゲーテ・インスティトゥート東京の翻訳ワークショップでも口頭発表を行った。 また、クレメンス・ゼッツ・シンポジウム『クレメンス・ゼッツーポストヒューマニズムの文学』(2019年12月14日首都大学東京にて開催)を主催することができた。レオポルト・シュレンドルフ(首都大学東京)、眞鍋正紀(東海大学)、金志成(早稲田大学)、福岡麻子(首都大学東京)、犬飼彩乃(首都大学東京)の五名がそれぞれ異なる作品を分析し、あらためてゼッツがティル・オイレンシュピーゲルなどの文学的伝統やニーチェなどのドイツ哲学をはじめとするドイツ語圏の歴史・文化に根差しながら、科学技術の進展などを踏まえた現代的な視点で語りを捉えなおそうとしていることが明確になり、新しい視点が数多く得られた。 対照研究となる戦後作家のアルノ・シュミットに関しては、ドイツ語圏で一本論文を投稿し査読中になっているほか、初期短篇の語りの手法に観察できる作家のリアリティ志向とその実験的文体の萌芽に関して論文を一本発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は計画にある二名の対照的な作家のうち、アルノ・シュミットに関しては言語実験の萌芽ともいえる初期短篇に関して論文を発表できたほか、その独特な文体に関してドイツ語圏に論文を投稿した。より具体的な調査研究が今後必要となるが、ベースとなる文体や創作理論に関してまとめることができた。 クレメンス・ゼッツに関しては、小説作品の調査と翻訳の作業がほぼ完了した。その結果の一部は、秋に主催したクレメンス・ゼッツ・シンポジウムでも発表し、他の現代ドイツ語圏文学研究者とも活発に意見交換を行うことができた。今年度の調査結果をまとめた論文や邦訳の刊行は次年度以降に行う予定である。 この一年でもフェイク、バーチャルリアリティーなど新しい事実と虚構の関連に関する研究書が多く発表されており、文学作品分析への応用もますます注目される。今年度はドイツ語圏のみならず、英語圏の資料の収集にも着手したが、引き続き次年度以降も分野・対象を拡げての収集を予定している。
|
今後の研究の推進方策 |
2020年度は、前年度の調査を踏まえ、事実と虚構の関連について学会発表と論文投稿を行っていく。コロナ禍により状況が不透明になりつつあるが、現在のところクレメンス・ゼッツの作品群にかんしては独文学会での口頭発表を目指すほか、作家本人を招いての国際シンポジウムの開催を計画し、変容しつつある事実と虚構の関連について他の研究者と作家をまじえて議論を行う予定である。また研究で扱っているクレメンス・ゼッツの小説『インディゴ』について邦訳刊行に向け最終作業に入る。 アルノ・シュミットの前期作品に関してもクレメンス・ゼッツの作品と同様の調査作業を並行して進め、データの収集に努める。現在投稿中の論文のほか創作に関するエッセイについて論文を準備中である。
|