研究課題/領域番号 |
18K12347
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
井関 麻帆 福岡大学, 人文学部, 講師 (70800986)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 仏文学 / 思想 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、ルソーの諸作品に描かれる父親と、18世紀フランス文学作品に描かれる父親とを比較検討し、「ルソーにおける父親像」の特徴を明らかにした上で、18世紀フランスという時代のなかで変化する「父親」の社会的役割との関係、つまり「ルソーにおける父親像」誕生の歴史的意味の解明を目指している。 平成30年度は、ルソーの諸作品に描かれる父親の考察を行った。 1)書簡体小説『新エロイーズ』に登場する複数の父親を考察し、ルソーが描こうとした「理想の父親像」を明らかにした。分析にあたって、『新エロイーズ』全編から父親に関する全ての描写をリストアップした上で、それぞれの特徴によって分類し、「ルソーにおける父親像」研究の基盤となるデータベースを作成した。さらに、フランス国立図書館および国民議会図書館における資料調査を行い(8月)、『新エロイーズ』の草稿から執筆過程における父親像の変遷を確認することができた。 2)『社会契約論』および『政治経済論』で描かれる父親を考察した。ルソーは両作品において、国家の表象としての家族に着目し、家長である父親の役割について述べている。この考察を通して、ルソーが抱く「あるべき父親像」を明らかにすることができた。 3)『新エロイーズ』の善良な家長が掲げる教育理念と、『エミール』で理想とされる消極教育との比較検討を行った。その結果、両者は同様の思想に基づいており、理想の教育に必要とされる父親の役割は、『社会契約論』および『政治経済論』で提示される家長の役割に通じていることが判明した。 これらの研究成果は、日本フランス語フランス文学会九州支部大会(12月)において報告した(「善良なる暴君―『新エロイーズ』におけるルソーの父親像―」)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は、ルソーの諸作品に描かれる父親の考察を行い、学会発表を通して研究成果を発信することができた。 フランス出張中には、『新エロイーズ』研究の権威であるパリ第7大学のヤニック・セイテ准教授と面談し、本研究課題についての意見交換や、今後の研究成果の発信に関する打ち合わせを行った。セイテ准教授との議論を基に本研究課題を発展させた結果、『新エロイーズ』に登場する二人の父親は、専制的かつ家父長的な父親と、家庭を守る善良な家長という異なった姿で描かれており、それは前者から後者へと姿を変える18世紀フランスの父親像の変遷と極めて親和性があることが判明した。また『新エロイーズ』において、家庭のなかに悪徳が入り込むことを防ぐという家長の役割は、ルソーの諸作品を貫く思想(根本原理)を反映したものであることが明らかになった。これらの研究成果については、学会での報告とあわせて、令和元年度中の刊行に向けて論文を執筆しており、すでに掲載が決まっているものもある。 以上のことから、本研究課題は「おおむね順調に進展している」と判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
令和元年度は、18世紀フランス文学作品に描かれる父親の考察を行う。 1)ディドロの戯曲『一家の父』や著作『ある父親と子供たちとの対話』をはじめ、レチフ・ド・ラ・ブルトンヌの著作『わが父の生涯』、マリヴォーの処女作『慎重で公平な父親』など、18世紀フランスを代表する作家が描く父親を主な対象とする。著者および作品ごとに父親の描写をリストアップしてデータベースを作成し、それぞれの特徴を分析すると同時に、父親の描写に使用される形容詞などに着目して表現の傾向を把握する。 2)同時代の父親表象およびこの表象を支えている論理を突き詰めて執筆された『百科全書』の項目「父」(ジョクール騎士執筆)や、当時使用されていた辞典などを参照して一般的な父親像を見出し、その変遷を辿る。その上で、この変遷のなかに各文学作品の父親像を位置づけていく。 以上の研究を実施するにあたって、調査対象となっている資料および関連する研究論文は、国内図書館に所蔵されていないものが多いため、フランス国立図書館における資料調査(8月)を予定している。なお、フランス出張中には、本研究課題を発展させるために18世紀フランス文学や『百科全書』に精通した研究者と面談し、意見交換を行いたいと考えている。 研究成果は、大学紀要やフランスで刊行される雑誌への投稿論文として報告していきたい。
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