本研究課題は、ルソーの諸作品に描かれる父親と18世紀フランス文学作品に描かれる父親とを比較検討し、「ルソーにおける父親像」の特徴を明らかにした上で、時代のなかで変化する父親の社会的役割との関係、つまり「ルソーにおける父親像」誕生の歴史的意味の解明を試みたものである。ルソーの父親像は、18世紀フランスの社会変動がもたらした家族の変化と共鳴しつつ、専制的な家長から家庭を守る善良な家長へと変化する。それは進歩史観とは遡行的な歴史観を持つ「根本原理」に支えられていた。この「根本原理」によって旧時代の桎梏を脱し、近代的な父親像が誕生したという逆説的な図式が明らかになった。
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