研究課題/領域番号 |
18K12349
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉川 斉 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 特任研究員 (60773851)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | イソップ / 比較文学 / 古典受容 / 西洋古典 / 翻訳 |
研究実績の概要 |
近世以降にヨーロッパにおいて出版されたイソップ集の調査を進め、それらとその前後のイソップ集の関連性を追究した。本年度は英国や仏国への翻訳展開についても比較検討を行った。前者は、19世紀半ば英国のトマス・ジェームズおよびファイラー・タウンゼントの英訳イソップ集に含まれる「蛙と牛」の話に関して、古典および近世以降の各種バージョンをふまえて内容を検討し、その在り方を論文にまとめた(「19世紀英国における翻訳イソップ集に関する一考察――「蛙と牛」にみる母蛙の怒りを中心として」『津田塾大学紀要』51所収、2019年3月)。後者は中近世に拡がったフランス語版イソップ集を主要な検討対象とし、その変容を考察して、2019年3月9日に日仏ギリシャ・ローマ学会で講演を行った(「フランス語で書かれた様々な『イソップ寓話』について―伝統とオリジナリティー」)。 また、近世刊行のイソップ集について、1505年刊行アルドゥス本の冒頭にアプトニオス版『修辞学初等教程』のmythosの項目が掲載された意義に注目した。1480年刊行のアックルシウス本は、アルドゥス本同様に各話にepimythionと表記して教訓部を導入する。これはアプトニオス版『修辞学初等教程』以来教訓部を示す用語であるが、序文やラテン語部分等を見る限り、アックルシウスはその点を意識していない。一方、アルドゥスは『修辞学初等教程』の項目を配置することでその意味を明示する。同時に、彼はそのラテン語訳に、プリスキアヌスのラテン語訳『修辞学初等教程』に倣い、近世ラテン語訳イソップ集として初めてAffabulatioを用いた。アルドゥスはイソップ集を『修辞学初等教程』の枠組みに位置づけて提示したが、その後刊行されたイソップ集を鑑みても、西洋近世のイソップ集の在り方に一定の影響を及ぼしたと推測できる。この点は、さらに検討を進めて、今後公表する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は、初年度の研究実施計画に沿って、15世紀後半から16世紀までに登場した印刷本イソップ集の調査を進め、そこから各国への展開も含めた研究成果を公表することができた。これは、方法としては、次年度の予定を少し先取りする形となった。また、公表には至っていないが、アルドゥス本を基点に、『修辞学初等教程』と近世ヨーロッパのイソップ集の関係について検討を継続している。並行して教育関連資料の収集も順調に進めており、当初の実施計画通り、次年度に教育とイソップ集の関係を考察するにあたっての準備が整いつつある。
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今後の研究の推進方策 |
令和元年度は、現在検討を続けている近世ヨーロッパのイソップ集と『修辞学初等教程』について、教育との関わりも含め、その在り方の考察を進めて、何らかの形で公表する。また、各種テクストのTEI/XMLに準じた電子化作業にも順次とりかかる。ただし、まずは手法確立のために、対象を限定して電子化を行う予定である。さらに、可能であれば、とくに16世紀刊行の幾つかのラテン語イソップ集を対象に、2、3の話を取り上げて、相互比較を行いつつそれらの影響関係を検討していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度内に注文品の納品が間に合わなかった。改めて発注し購入する。
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