研究課題/領域番号 |
18K12352
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研究機関 | 東京経済大学 |
研究代表者 |
山辺 弦 東京経済大学, 全学共通教育センター, 准教授 (00808032)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | キューバ文学 / ラテンアメリカ文学 / 移民 / 翻訳 / バイリンガリズム / 世界文学 |
研究実績の概要 |
カブレラ・インファンテ、イフエロス、R・G・フェルナンデスに関する本研究について、当該年度における当初の活動計画には大別して、1.研究全体を補完・展開する資料の収集と分析、2.R・G・フェルナンデスに関する論考の執筆、3.これまでの研究成果をまとめ、これを反映した刊行物の出版を目指す、という三点があった。 まず上記1に関しては、昨年度から続く問題点として、新型コロナウイルスの世界的流行に伴い、当初の想定通り世界各地に出向き、希少な文献を収集・分析したり、関係者への聞き取りをおこなうなどの一部の計画は実現できなかった。しかし一方では、比較的容易に入手できる文献等の収集・分析についてはより時間をかけて広範に進めることができ、補完的な資料収集・分析という意味では、計画通りかそれ以上の成果を得たとも言える。またこれにより、キューバ文学のみならずラテンアメリカ文学や世界文学など、より広い文脈の中に本研究を位置づける視座を得た。 上記2に関しては、R・G・フェルナンデスの『後ろ向きの雨』についての論考の執筆を相当程度進めることができた。またその一部は、上記計画3の成果にも発展した。すなわち、カブレラ・インファンテ『煙に巻かれて』、さらにはカルベール・カセイの作品とも比較しつつ、学術論文として出版することができた。他にも上記計画3の成果としては、カブレラ・インファンテおよびレイナルド・アレナスに関する『ラテンアメリカ文化事典』の項目を、本研究の成果を反映する形で出版することができた。 また、本研究と関わりの深いその他の成果として、在日メキシコ大使館主催の文化イベントにて、フアン・ビジョーロ『証人』についての口頭発表を実施した。この小説は、キューバ作家の作品ではないものの、移民の祖国への帰郷と「郷愁」の相対化という核心のテーマを扱っている点で、本研究の重要な考察対象となるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記概要に記した通り、当該年度の研究は、おおむね交付申請書に記された当初の枠組みに沿って実施された。そこでは、新型コロナウイルスの世界的流行によるいくつかの困難が生じ、必然的に、研究計画の範囲内での内容の変更を伴ったとはいえ、収集できた資料については分析が進み、考察や執筆も順調に展開していること、さらに上述したように、広い文献にあたることでキューバ文学のみならず世界文学的な文脈に本研究を位置づけうるような新たな視座を得たことは、そもそもの「研究の目的」に、「従来の外国文学研究における単一言語・単一地域的なセクショナリズムに疑義を呈する」ことを掲げていた本研究にとっては、予想以上の望ましい発展だったと評価できる。 しかしながら、本研究の当初の計画からすれば、やはり軸の一つとしていた希少な一次資料の収集が、新型コロナウイルス流行に伴う海外渡航の困難や施設の閉鎖などにより、十分に実現できていないことは否定しがたい。中でもとりわけ、昨年度から引き続く課題である「R・G・フェルナンデスに関する資料の収集」は、一定数の資料収集はできてはいるものの、希少な一次資料を取集するための一部の活動は、今年度に至っても実現することはできなかった。 以上の諸点を鑑み、当該年度における研究に対しては、資料分析と考察に注力することで研究計画の枠内での予想以上の広がりが見えてきた一方で、あくまで当初の研究計画から見れば資料が不足している面があるという事実を踏まえ、「おおむね順調に進展している」と評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
上記進捗状況に示した通り、当該年度の研究実施には、当初の計画通りではなかった部分と、新たな展開や発展性が生じてきたという二つの側面があった。そこで本研究ではこの二つの側面を重視し、交付申請書に記された当初の研究内容を予定通りに実施できる可能性をまず探り、かつこれが難しい場合には、適切な形で本研究の内容を発展的に変更していく可能性を探るべく、すでに補助事業期間延長の申請を出し、これを認められている。従って、延長期間にあたる2021年度においては、これらの可能性を視野に入れた以下のような対応策を考えている。 まずは、十分な期間海外出張に出ることが可能な世界情勢となるようであれば、複数回もしくは複数の場所へ渡航し、効率的な資料収集をおこなうことで、本来の計画にとって十分な資料を集めることを試みたい。しかし、これが難しいようであれば、資料収集先の機関によるオンラインでの公開アーカイブや、一部の聞き取り調査を遠隔でおこなったりする可能性は引き続き探りながらも、本研究計画をさらに広い文脈へ開いていくような論の発展を目指したり、そのために対象となる資料を選定し直したり、多数の資料を電子媒体という特性を活かして分析するようなアプローチを取り入れたりすることで、計画を一部変更していくことも検討している。すでに上で述べた通り、キューバ作家のみならず他のラテンアメリカ作家に対しても、「移民による郷愁の相対化」の分析を進めており、2021年度はこれに関して、世界文学関連団体での発表および論考の出版を計画中である。また、より広く包括的な論展開を模索する上で、論文だけでなく、より多様な媒体における成果発表を視野に入れ、研究成果の意義を適切な形で世に問うことを目指していきたい。どちらの場合も研究の趣旨や目的に沿って、科研費の使用も適切かつ柔軟に見直していくこととしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
すでに述べた通り、当該年度においては、資料収集のための海外出張をおこなうことができず、補助事業期間延長をおこなった。延長期間となる2021年度の使用計画は、上記推進方策で想定した複数のケースに応じてそれぞれ異なってくる。 十分な期間海外への資料収集に出ることが可能な場合には、渡航の回数や場所を増やし、多くを旅費として支出することで総額を使用する予定である。ただしコロナ禍の現況では、資料収集や分析にもオンライン上のものや電子的方法を積極的に取り入れていくことも不可欠であるため、これらを実現するための物品費等も割合を高めたい。 一方、海外出張が難しい場合には、さらなる論の発展性を追及するために、新たに広範な資料や情報を確保する必要があることから書籍や物品の購入費の割合がさらに増える。同時にこの場合は、資料収集において研究協力者を確保したり、遠隔での話の聞き取りや研究相談などをおこなう可能性も高まるため、協力者への謝金、必要な物品費などを増加させて研究の必要を満たしたい。また、出張を伴わず入手できる文献を中心に分析したり、希少な文献などを取り寄せたりしながらの研究にシフトする場合には、書籍や物品の購入費の割合がさらに増える可能性もある。 いずれの場合においても、適切かつ状況に応じた最善の使用法を模索していく予定である。
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備考 |
事典項目「ギジェルモ・カブレラ・インファンテ」(pp. 36-37)「レイナルド・アレナス」(pp. 38-39)。『ラテンアメリカ文化事典』、ラテンアメリカ文化事典編集委員会編、丸善出版、2021年1月29日。 在日メキシコ大使館主催、「文学帝国メキシコへの招待 現代小説の名作を味わう」におけるフアン・ビジョーロ『証人』に関する口頭発表、2021年3月5日、Zoomによるオンライン文化イベント。
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