研究課題/領域番号 |
18K12354
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研究機関 | 中京大学 |
研究代表者 |
杉浦 清文 中京大学, 国際学部, 准教授 (40645751)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 植民地主義 / 朝鮮半島 / 引揚者 / 白人クレオール / カリブ海地域 |
研究実績の概要 |
令和2年度における研究成果は、以下4点にまとめることができる。①令和元年度にリーズ大学の図書館と大英図書館で収集した白人クレオール文学及びポストコロニアル文学全般に関する資料を再検証した。②学会誌『植民地文化研究』第19号に掲載された論考において、日本比較文学会元会長西成彦氏と往復書簡の形で対話する中で、日本人にとってのポストコロニアル研究、そして新しい比較文学研究のあり方について議論を深めることができた(植民地文化研究の最前線に触れる(第1回)「外国文学者の自国回帰をめぐって: 英語圏文学者・比較文学者の杉浦清文さんに聞く」)。その際、当該研究(「カリブ海諸島及び朝鮮半島における(旧)植民者の文学に関する比較越境的研究」)の研究アプローチの独自性を再確認するに至った。③森崎和江の文学性と比較考察する中で、満州からの引揚者である三木卓の『ほろびた国の旅』に関する論文を執筆した(令和3年6月1日出版予定。伊勢芳夫編『「近代化」の反復と多様性――「東と西」の知の考古学的解体』、溪水社、第 8 章「少年時代の断片化された記憶、そして<原体験>――三木卓の『ほろびた国の旅』を読む――」を担当)。④森崎和江の詩作を精査した論文「植民者二世と朝鮮――森崎和江の詩におけるダイアローグ、そして共振について――」を書き上げた。この論文ではまた小林勝の小説と思想にも着目した(令和3年度中に学術雑誌に掲載予定)。 しかし、令和2年度は、新型コロナウィルス感染症の想定外の蔓延により、残念ながら研究計画を予定通りに進めることは難しかったといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成30年度に日本比較文学会中部大会シンポジウム「帝国崩壊と本国帰還―イギリス、ドイツ、日本における(旧)支配者たちの<語り>―」を企画・開催し、そこで研究発表を行った。そして令和2年度になって、そのときの発表原稿に大幅な加筆修正を施し、論文「少年時代の断片化された記憶、そして<原体験>―三木卓の『ほろびた国の旅』を読む―」を書き上げた。また、令和2年度は、『植民地文化研究』第19号に掲載された論考「外国文学者の自国回帰をめぐって: 英語圏文学者・比較文学者の杉浦清文さんに聞く」において、西成彦氏の強調する<横領的>な読みや<交叉的読書>(それらは当該研究の研究アプローチと密接にかかわっている)の重要性を再認識した。さらに、令和2年度では、森崎和江の詩を精査した論文を執筆し、彼女と朝鮮との複雑な関係性をより深くまで探究できた。 しかしながら、令和2年度は、新型コロナウィルス感染症の世界的な大流行のため、予定していた研究発表はすべて延期となり、そのうえ英国から講師を招待し開催するはずであった講演会も中止となった。具体的には、登壇予定であった黒人研究学会全国大会のシンポジウムと日本アメリカ文学会全国大会のシンポジウムは、令和3年度に延期されることとなった。続いて、ポストコロニアル文学研究で世界的に著名なジョン・マックラウド教授(英国リーズ大学)を中京大学に招聘し講演会を開催する予定であったが、中止せざるを得なかった。もちろん、こうしたコロナ禍の中では、韓国及びカリブ海地域での現地調査も実行不可能であった。 以上の理由から、現在までの研究の進捗状況は、やや遅れていると判断できる。その結果、研究期間を一年延長することにした。
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今後の研究の推進方策 |
まず、研究発表に関しては以下3点を予定している。①前年度、令和3年度に延期となった黒人研究学会全国大会のシンポジウムで研究発表を行う。②同じく、令和3年度に延期された日本アメリカ文学会全国大会のシンポジウムで研究成果を発表する。③さらには、日本英文学会中部支部大会のシンポジウムにおいて研究発表を行うことになっている。 次に、研究論文の業績に関しては、少なくとも以下3点を計画している。①既に述べた通り、令和3年6月1日には、論文「少年時代の断片化された記憶、そして<原体験>―三木卓の『ほろびた国の旅』を読む―」を発表する(伊勢芳夫編『「近代化」の反復と多様性 「東と西」の知の考古学的解体』、溪水社、第 8 章)。②同様に既に述べたが、森崎和江の詩を分析した論文「植民者二世と朝鮮――森崎和江の詩におけるダイアローグ、そして共振について――」を学術雑誌に掲載する。③また最終年度であるため、当該研究のこれまでの研究成果を研究報告書として公開していく。 なお、令和3年度においても、引き続き、当該研究に必要な資料・図書を購入していきたい。加えて、これからも新型コロナウィルス感染症が収束しない場合は、Zoom等を利用してリモートで白人クレオール及び引揚者の文学に関する研究会も開催していく予定である。ただし、今後、新型コロナウィルス感染症が収束した場合は、とりわけ以下3点を実行に移す必要がある。①国内だけでなく国外の研究施設において、当該研究に関連した実証的資料の収集を行うこと。②国内外で開催される、白人クレオールや引揚者の文学研究に関連した学会、研究会、イベント等への積極的な参加。③現在のところまだ実現できていない、英語圏カリブ海諸島及び韓国での現地調査。 以上が最終年度となる令和3年度の研究推進方策である。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度は、新型コロナウィルス感染症の蔓延のため、予定していた研究発表、そして英国から講師を招待し開催するはずであった講演会も中止となった。また、同じ理由により、韓国及びカリブ海地域での現地調査を行うこともできなかった。 以上の理由から、研究期間を一年延長することになった。したがって、令和2年度の未使用額500,029円は、令和3年度において全て執行する予定である。具体的には、新型コロナウィルス感染症が収束した場合は、①国内外の研究施設や図書館等で資料を収集、または国内外で現地調査を行う際に、旅費として執行する。②また、国内外から資料や図書を購入する際に、物品費として執行することを考えている。ただし、新型コロナウィルス感染症が収束しなかった場合は、主に国内外から当該研究に関連した資料や図書を購入する際に、物品費として執行するつもりである。
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