最終年度の研究成果は以下2点にまとめることができる。①国際シンポジウムにおいて、Danticat Reading Jean Rhys: A Consideration of In-Betweenness and Creativity in the Work of Haitian-American Author Edwidge Danticatと題する研究発表を英語で行った。本発表では、「中間地点の空間」(in-between spaces)という概念に注目し、ジーン・リースとハイチ系アメリカ人作家エドウィージ・ダンティカの「故郷喪失者」としての複雑な立ち位置を考察した。②国立国会図書館において、カリブ海地域及び戦後日本の文学に関する資料収集を行った。 本研究は、英語圏カリブ海諸島出身の「白人クレオール」の文学と朝鮮半島からの「日本人引揚者」の文学を比較越境的に検証することが目的であった。研究期間全体を通じて実施した研究成果は以下3点である。①「白人クレオール」の文学研究:「故郷喪失者」という観点から、ジーン・リースの文学作品を中心に検証する中で、彼女の複雑な故郷観を浮き彫りにすると共に、そこからハイチ系アメリカ人作家エドウィージ・ダンティカの文学研究へと接続することができた。②「日本人引揚者」の文学研究:これまであまり研究されてこなかった森崎和江の詩に着目し、その際、村松武司や五木寛之、さらには小林勝の文学作品も比較文学的に検証した。その結果、朝鮮半島で生まれ育った植民者2世の複雑な故郷観が明らかとなった。③新たな比較文学研究の可能性:国民文学の範疇では考えることの難しい越境的要素の強い文学を精査することで、従来の比較文学研究の問題点を露呈し、新しい比較文学研究の可能性を見出すことができた。今後の研究においても、この新たな比較文学研究の可能性をさらに探究していきたい。
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