研究実績の概要 |
今年度は、例外的格標示構文における対格主語の振る舞いの分析を継続し、その理論的・経験的帰結を考察した。特に、対格主語と補文標識句内の付加部の分布を考察した。補文標識句内に基底生成される付加部が対格主語に先行できるという観察は、随意的移動分析 (Hiraiwa 2001 等) を支持すると考えられてきた。しかし、付加部が対格主語の移動に「ただ乗り」する (Saito 1994, Sohn 1994) と仮定することにより、この観察が義務的移動分析 (Kuno 1976 等)とも矛盾しない形できると提案した。この「ただ乗り」分析は、(1)対格主語が「のこと」を伴わない場合の分析、そして(2)対格主語が「のこと」を伴う場合の分析、以上2点ついて示唆を与える。まず(1)については、「のこと」を伴わない対格主語と付加部の分布を大目的語分析 (Hoji 1991) では捉えることが困難であると指摘した。これは、「ただ乗り」が同節要素制限に従うものの (Takano 2002)、大目的語分析が対格主語と埋め込み節の付加部が同節に生起しないことを含意するためである。次に、(2)については、対格主語が「のこと」を伴う場合、大目的語分析 (Kishimoto 2018) に加えて、(随意的・義務的)移動分析も必要であると主張した。これは、埋め込み節の付加部が「のこと」を伴う対格主語に先行できるからである。上記の「ただ乗り」及び同節要素制限を踏まえると、この観察は、「のこと」を伴う対格主語と埋め込み節の付加部が同節に生起することを示唆する。従って、「のこと」を伴う対格主語が埋め込み節内に基底生成されることを含意する移動分析が必要となる。上記の成果は「日本語研究から生成文法理論へ」及び Nanzan Linguistics 16 にて公開された。
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