研究題目「紀伊半島熊野灘沿岸地域諸方言アクセント類型論の形成」について、研究期間中、申請者がこれまでに現地調査を未実施であった複数地点で方言アクセントの調査を行うとともに、詳細な現地調査を実施済みの三重県尾鷲市尾鷲方言についての発展的な研究を遂行した。 平成30年度、三重県熊野市木本地区・三重県南牟婁郡御浜町阿田和地区で現地調査を実施し、ともに尾鷲地区とは地理的な隔たりの小さい中で、大きく異なるアクセント上の特徴をもつ方言が話されていることを確認した。申請者のこれまでの研究により、尾鷲方言は三重県北中部の諸方言と大きく異なるアクセント上の特徴をもつことが解明されているが、木本方言は県北中部の諸方言と類似のアクセントをもつことが判明した。阿田和方言については、県北中部の方言とも尾鷲方言とも異なる特徴をもつ。 詳細なアクセントの研究を遂行済みの尾鷲方言については、その特筆すべき音韻論的特徴である連読変調の現象と、日本語諸方言には稀な有声の促音に焦点をあて、2件の国際学会で発表した。また、語彙レベルの現象であるアクセントの研究をより発展させ、文レベルの現象であるイントネーションのうち、呼びかけイントネーションについての発表を行った。 令和2年春以降の新型コロナウイルス感染拡大をうけ、実施予定であった熊野灘沿岸地域での方言の現地調査を断念した。調査対象地域には高齢化の進んだ地区も数多くあり、現地調査の実施には慎重な判断が必要ととらえられる。 研究期間最終年度では、実施済みの現地調査で得られたデータに基づき、熊野灘沿岸地域諸方言の日本語アクセント論上のふるまいを、より視野の広い世界全体の言語の音韻論に還元することを試みた。
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