研究課題/領域番号 |
18K12363
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研究機関 | 大学共同利用機関法人 人間文化研究機構本部 |
研究代表者 |
安達 真弓 大学共同利用機関法人 人間文化研究機構本部, 総合人間文化研究推進センター, 研究員 (70790335)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ベトナム語 / 移民コミュニティ / リトル・サイゴン / 言語景観 / 言語教育 |
研究実績の概要 |
2019年度は、日本とオーストラリアのベトナム系コミュニティの言語景観に見られる多言語表示の比較を行うため、2018年度にオーストラリア(シドニー・メルボルン)のベトナム人集住地域(いわゆる「リトル・サイゴン」)において収集したデータ(ベトナム語や英語で書かれた、店の看板や貼紙などを撮影した写真)の分析を行った。その結果、オーストラリアでは、一つの看板や貼紙の中でベトナム語と英語が切り替えられる「クリエイティブ」な表記が多数見られた。一方、日本(特に、調査者がこれまで参与観察を続けてきた神奈川県)においては、ベトナム語と日本語の併記は時折見かけられるものの、ベトナム語の中に日本語の単語が挿入された例はあまり見られない。豪・日の言語景観に違いが見られる理由について、2019年7月の国内学会ではコミュニティの規模の観点から、また、2019年11月の国際学会では若者の言語学習の動機付けの観点から説明を試みた。加えて、一般の読者を対象とする雑誌に、日本のベトナム難民コミュニティにおける言語教育問題について解説する記事を寄稿した。在留外国人が増加しつつある現代の日本で、このようなアウトリーチ活動を行うことには意義があると考える。 今後は、各地の移民コミュニティにおける言語使用について、個人研究としてだけでなく、共同研究を展開することを計画している。その端緒として、2018年度に開催した国際シンポジウムにおける発表原稿を大学紀要の特集としてまとめる作業を、特集編者として担当した(2020年3月刊行)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は当初、「在日ベトナム系移民の会話には、なぜコードスイッチングが少ないのか」という問いに答えることを目的として掲げていた。しかしながら、研究を進める過程において、調査者の興味関心や実際の調査対象は、ベトナム語の「話しことば」から「書きことば」へと変化しつつある。その理由としては、ベトナム語を母語としない調査者にとっては看板や貼紙といった書きことば資料の方がアクセスが容易であることに加え、昨年度、チェコスロヴァキアにおけるベトナム系コミュニティをテーマとする研究者と知り合い、言語景観に関する文献などを紹介してもらったことが挙げられる。 そのような状況にあっても、当初の目的の中にある「会話」を「言語景観」と読み替えることによって、コードスイッチングの発生要因を探る研究を継続することは可能であると考えている。これまでの調査によって、在豪ベトナム系コミュニティでは「話しことば」だけでなく、「書きことば」においても言語が切り替えられる頻度が在日ベトナム系コミュニティよりも高いことが分かっている。「話しことば」と「書きことば」、そのどちらにも共通する要因として現段階では、言語教育や言語政策などの社会的な要因を挙げている。最終的にはベトナム系移民コミュニティにおける話しことばと書きことばのそれぞれの特徴を詳細に比較し、コードスイッチングの発生頻度を言語的要因からも説明できる研究につなげたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本来であれば2020年度は、オーストラリアと日本の移民コミュニティにおいて、ベトナム語の話しことばについてのフィールドワークを実施することを予定していた。しかしながら、前述の調査者の関心の変化という要因だけでなく、昨今の新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大という社会情勢の点からも、調査計画の変更は不可避となっている。 本研究申請時の研究計画調書の「実行可能性」の欄には、研究が計画通りに進まない場合の代替策として、「既存の越英コーパスや、在豪越系コミュニティのオンラインメディア(新聞やSNS)などのデータの分析を進める。」と記載した。よって、今年度はこの「主にインターネット上で収集できるデータを使用する」という案を活用して、引き続きベトナム語の書きことばについての基礎的な調査分析を進めながら、話しことばにおけるコードスイッチングに関する調査を実施する機会をうかがいたい。 本報告書の5.「研究実績の概要」の欄にも記載したが、共同研究を実施することも現状の打開策であると考えている。当面は、2018年度に国際シンポジウムを開催した際の国内外のメンバーとオンライン研究会を開催して、移民の言語の研究について幅広く議論し、新たな着想や知見を得たい。また、2018年度にオーストラリアにおいて現地調査をコーディネートしてくださった研究者などにも相談して、オンラインで話しことばの調査を行う可能性についても模索したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度は所属の変更により、高額なノートパソコンを1台購入する必要が生じた。さらに、海外開催の国際学会に3件採択されたため、昨年度前半の時点では当初の計画以上の渡航費の必要が見込まれた。そこで、年度半ばに前倒し支払い請求を行った。しかしながら、昨年度後半に参加した国際学会のうち1件の開催時期が本務機関の(学会と同じ都市で開催された)別の用務と重なったため、実際には自身の科研費からは片道分の航空代金しか支出しなかった。上記のような理由から、繰越金が生じた。 2020年度は再度所属を変更したため、繰越金はソフトウェアのサブスクリプションなど、研究環境の再整備に充当する予定である。
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備考 |
【研究会における発表】 安達真弓(2019)「シドニー・メルボルンのベトナム人集住地域の言語景観」第21回東京移民言語フォーラム
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