研究課題/領域番号 |
18K12368
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
田中 秀治 三重大学, 教養教育院, 特任講師(教育担当) (90779381)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 追加助詞「も」 / 焦点との関連付け / 否定の作用域解釈 / 統語論 / 意味論 / 語用論 |
研究実績の概要 |
2018年度は、焦点助詞の一つで追加の意味を表す「も」について、二つの問題に取り組んだ。一つ目は、「も」はどのように焦点との関連付けを行うのか。二つ目は、「も」はなぜ否定の作用域の下で解釈されえないのか。これらの問題は、先行研究では統語論的な説明が提案されてきたが、本研究では、その説明の経験的不備を指摘し、かつ、意味論・語用論的な説明を提案した。その提案は、「も」の解釈メカニズムが「断定命題を含意するような代替命題」を作り出すという発想を形式化したもので、二つの問題に対して統一的なアプローチを可能にする。 一つ目の関連付けの問題に関する論考の一部は、国際ワークショップである Semantics & Pragmatics Workshop at Mie University (2018年8月10日開催)で発表した。この論考では、関連付け現象を「C統御条件」と「非顕在的助詞移動」で捉える統語論的な説明に反論し、意味論・語用論に基づく説明を主張した。二つ目の否定作用域の問題に関する論考は、国際学会であるChicago Linguistic Society の第55回年次大会(2019年5月16日~18日開催予定)に応募し、ポスター発表として採択されている。この論考では、焦点要素が「素性照合」の要請から否定の作用域外に移動するという統語論的な説明に反証し、一つ目の論考に沿った説明を主張する。 以上の研究成果、特に一つ目の論考は、本研究課題の目的である「関連付け現象への統語論的アプローチの検証」と「意味論・語用論的アプローチの展開」を試みたものである。この試みは、焦点助詞の研究を新しい方向に促すもので、領域横断的な研究の重要性を示唆する。重要なことに、この試みの妥当性は、二つ目の論考で議論するように、別の異なる現象にも同様のメカニズムで説明を与えるという点で支持される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
区分の理由は、「も」の事例研究を通じて、本研究課題の目的である「関連付け現象への統語論的アプローチの検証」と「意味論・語用論的アプローチの展開」を計画通り行ったと評価できるからである。特に、その事例研究で提案した「も」の解釈メカニズムは、他の焦点助詞の意味論・語用論にも拡張でき、日本語焦点助詞の網羅的研究の土台になることが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は、2018年度に行った「も」の事例研究を統合し、その研究成果を国際的なジャーナルに投稿するための作業を行う。さらに、その研究成果に基づいて、日本語焦点助一般に適用できる関連付けの理論を提案することを目指し、別の焦点助詞の事例研究を行いながら、その研究成果を国内学会・国際学会で公表するための作業を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度に購入すべき言語学関係の図書が想定していたより多く、旅費の一部と人件費・謝金を物品費に回して使用した結果、残りの金額では必要となる図書を購入できなかったため。この残りの金額は、2019年度に交付される予算と合わせて、希望する図書の購入費に充てる予定である。
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