「会話コミュニケーションにおいて,いつ,誰が,どのような種類の発話を行い,これに対して,誰が,どのように応答するか」を体系的に説明できる枠組みとして,会話参与者の成員カテゴリーに基づく分析手法を構築し,これをさまざまな実社会場面で収録された会話コーパスを用いて検証することを目的とした.これにより,「誰が」「何を」話すかという会話における二つの基本的問題を相互に関連づけられるようになることに加え,ある成員が会話内で発話を行うというミクロな社会現象をその背後にあるよりマクロな社会的規範という観点に接合する端緒が開かれ,関連社会科学分野へのより広範な貢献も可能になる. この目的の達成のため,「会話のある時点で.ある成員カテゴリーが活性化されると,ある特定の種類の言語行為を実行しやすくなる」という作業仮説に基づき,理論的・実証的な研究を進めた. しかし,2020年からのコロナ禍の影響により,当初計画していたフィールド調査による新規データの収集や対面状況での会話実験などの多くは断念せざるをえなかった.そこで,既有データの分析を中心とした実証研究と本研究に関わる理論的観点からのモデル構築に重点を置くことにした. より具体的に,実証研究としては,職能中心型会話であるサイエンスカフェと起業コンサルテーションに関する分析成果を2冊の書籍の部分執筆で発表した.また,野沢温泉村での道祖神祭りの調査では,現有データを用いた分析を行った論文を論文集の一部として来年度中に刊行予定である. 理論的研究としては,参与者間での匿名的な出会いと発話のアドレス決定における成員カテゴリーの役割に関するわる理論的検討の結果を成果発表した. このように,成員カテゴリーと各参与者の会話の場への参与の仕方の多様性との間の相互参照的関係についてのモデル化が一定程度進められた.
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