子どもの初期の言語発達において、語彙の獲得はその後の言語発達を予測するうえでも重要な要因と考えられている。意味を伴う語の獲得は、1歳半から2歳にかけて急速に進むことは知られているが、その獲得過程の認知神経メカニズムは依然として明らかにされていない点が多い。本研究では、視覚刺激(動物の写真)と音声刺激(名称)の一致・不一致条件の刺激を使用し、注意機能との関係性が示唆されている瞳孔径の変化を指標として、これまで9か月児と12か月児の解析を中心に行ってきた。最終年度である本年度は18か月児のデータを加え、語彙の爆発期前後の発達過程を明らかにすべく解析を行った。昨年度に続きコロナ禍の影響を受け、18か月児のデータ収集が十分に実施できなかったことは課題として残るが、本研究により、以下のことが明らかとなった。 まず、9か月児では視覚刺激と音声の一致・不一致に関わらず瞳孔径の変化量に違いがみられなかったものの、12か月児では対象と音声の一致条件において、不一致条件よりも散瞳するという結果が得られた。さらに18か月児では、逆に不一致条件においてより散瞳する可能性が見いだされた。この18か月児の結果は、成人や2~3歳児を対象とした先行研究の結果と一致している。これらの結果から、語彙爆発につながる初期の語彙獲得において、乳幼児は学習過程にある語に対しては積極的に注意を向ける一方で、特定の語の意味表象が獲得され、他の語との境界が明確になるにつれて、その反応が成人と同様の不一致条件への逸脱反応へと変化することが示唆された。さらに、瞳孔反応は、言語の獲得過程にある乳幼児の客観的な意味の理解度を測るひとつの有用な指標となりえることが示唆された。今後は18か月児のデータ数をさらに増やすとともに、24か月児を対象に加えることで、さらなる検証を進めていく。
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