研究課題/領域番号 |
18K12378
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
渡丸 嘉菜子 上智大学, 理工学部, 研究員 (40735990)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 言語音声知覚 / 母語音声 / 外国語音声 / 母音 / 語彙情報 |
研究実績の概要 |
人間の知覚の仕組みを明らかにする過程において、母語と外国語の処理方法の違いは従来から注目されている課題である。母語、外国語の音声知覚には共通点も見られることから、統一したモデル構築の妥当性が指摘されてしかるべきであるが、音声知覚に関わる様々な要因が、それぞれの言語(母語・外国語)に与える影響の度合いが異なることから、統一モデルの提案が難しい状況にある。本研究では、母語、外国語知覚について統一したモデル構築を最終目標と、物理的要因から予測される音声知覚パターンが、言語知識、特に語彙情報によってどの程度影響を受けるのかについて、知覚実験を用いて具体的に調査している。 平成30年度の目標は、日本語母語話者の英語の母音知覚について、物理音響的要因による知覚傾向を調査することである。近年、母語の音声カテゴリー獲得過程において、より知覚しやすい母音Aから、より知覚しにくい母音Bへの変化の方が、その逆よりも変化に気づきやすい、ということが明らかになりつつある。さらに、母語の音声カテゴリー獲得後は、同様の傾向が外国語音声知覚においてみられる可能性があることが、先行研究から示唆されている。平成30年度は、母音知覚に関係した諸理論にもとづき、日本語母語話者を対象に、特定の母音について潜在的に知覚しやすい、もしくは知覚しにくい、と言った傾向があるか否か、調査するための準備調査を行った。上記のような潜在的な知覚しやすさの違いには、母音の調音方法が関係している。そこで、準備調査として、調音方法が最もニュートラルと言われる英語の弱化母音(シュワー)を対象に、日本語母音とシュワーの調音方法の類似が知覚に与える影響について調べた。結果は、学術論文としてまとめ、出版予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定では、上記の「特定の母音について潜在的に知覚しやすい、もしくは知覚しにくい、と言った傾向があるか否か」という問題について調査に取り組み、結果をまとめることが目標であった。しかし、その課題に取り掛かるためには、音声の調音方法と知覚傾向がどのように関係しているかについて明らかにする必要があった。そこで、準備段階として、英語母音の中でも最もニュートラルな調音方法を持つといわれる弱化母音(シュワー)について、日本語話者による知覚傾向を調査した。研究環境としては、初年度が始まってすぐに自身が出産をしたため、育児等の事情により、出産後の研究環境に想定していた以上の制限が生じた。そのため、研究活動は、在宅でできる資料調査やデータ分析を優先した。結果、初年度の当初の予定達成まで至らなかった点では進捗がやや遅れている。しかしながら、本年度、先行研究の調査や予備調査を進めたことにより、結果的に当初の目標達成に有益な知見を得られた。このような示唆が得られた事は、本研究の最終目標達成のために必要な過程であり、次年度に向けた成果が挙げられた点ではおおむね順調に進展している。調査結果と成果については、学会等にて公表予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は、日本語母語話者による英語母音の知覚傾向について調査することを目的としている。母音の知覚を調査するとき、通常、母音の調音方法がどの程度影響を与えるかについて明らかにすることから調査を始めるのが妥当である。初年度は、英語母音の中でも調音方法がニュートラルと言われる弱化母音(シュワー)を対象に、調音方法と知覚の関係について調査結果を得た。調査から得られた成果をもとに、2019年度は、日本語母語話者による英語母音の知覚について、潜在的な知覚しやすさの違いがあるか否か、について明らかにすべく、調査を進める。具体的には、英語母音の特定の母音は、それ以外の母音よりも知覚しやすい、ということがあるか否かについての調査方法を決定し、実行、調査結果が先行研究と矛盾ないかを確かめることが目標である。調査を行うにあたり、改めて先行研究の調査と予備調査を行う。その上で、調査方法と調査対象の検討を慎重に行う。現在の計画では、日本語母語話者を対象に、知覚実験を行う予定である。知覚実験を行うにあたっては、調査内容や個人情報等に十分配慮した上で行う。十分な資料にもとづいた調査が順調に進んだ場合には、次年度に予定している計画を前倒しで進める。前倒しの調査を行う場合にも、調査方法と調査対象については、先行研究の調査と予備調査をもとに慎重に決定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度が始まってすぐに自身が出産をしたため、育児により出産後の研究環境に制限が生じた。そのため、研究活動は、在宅でできる調査やデータ分析を優先した。結果、初年度の当初の予定達成まで至らなかった点があるため、次年度使用額が生じた。次年度は、初年度に実施予定だった実験、論文出版を行う予定である。翌年度分として請求した助成金は、実験で使用する機器、謝礼、論文出版費用に充てる。
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