研究課題/領域番号 |
18K12379
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研究機関 | 成蹊大学 |
研究代表者 |
野原 将揮 成蹊大学, 法学部, 准教授 (80728056)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 上古音 / 出土資料 / 楚簡 / 秦簡 / 声母 |
研究実績の概要 |
2018年度は通仮字の整理のほか、主に以下のような研究を進めた: (1)「泉」の上古音について:「泉」は中古音以降では合口であるにもかかわらず、上古音(文献に基づく)とびん[門+虫]語のデータによると、開口(非円唇母音)に由来すると考えられる。ところが中古音やびん[門+虫]語以外の諸方言において「泉」は合口であるため、研究者によって再構音に出入りが見られる。そこで本研究では「泉」が上古において非円唇であり、中古に至るまでに何らかの要因によって円唇化したと推定し検討を加えた。その要因について、秋谷(1995)は「泉」がしばしば合口(円唇母音)である「水」と複合語(「泉水」等)を構成するとして、このことによって「泉」が円唇化(同化)したと考えるが、本研究では「義通換読(同義換読)」によって「泉」と「原(源)」の読み替えが頻繁に行われた結果、Contaminationが生じたと結論づけた。また秦系資料における「泉」と「原(および原と諧声関係にある)」についても整理を加えている。 (2)「少」の上古音に関する再検討:野原(2015)「少の上古音再構について」(『中国語学』262)では「少」の上古音(特に声母)の再構を試みた。今年度は野原(2015)で残された課題について検討を加えた。すなわち中古音書母sy-と心母s-(生母sr-)等との不可解な通用関係である。本件研究では「義通換読(同義換読)」という視点から書母sy-と心母s-が通用可能であることを明らかにした。 (3)伝世文献、出土資料を用いた研究と比較方法による研究について:従来、上古音研究を進める上で重要となるデータは文献資料が中心であったが、近年では比較方法(Comparative method)を用いた研究も盛んである。いわゆる中古音の書母を例に、伝世文献・出土資料を用いた研究と比較研究が相互補完関係にあることを再確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
秦系資料の整理を継続して行っている。音韻体系全体を明らかにすることを目的としているためこのまま継続して進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
従来の計画通り進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
謝金等が発生しなかったため。2019年度の消耗品に充てる予定。
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