研究実績の概要 |
令和4年度(2022)は2021年度に引き続き、秦簡にみられる音声的近似に基づく「当て字」である通仮例の収集を継続した。それとともに個別の問題について検討を進めた。 学会発表として、(1)「説「稲」与「襄」」を「第13回重建原始びん語及其相関問題工作班(びん=門+虫)」、(2)「漢語借詞?:苗語中的“穗子”和“袋子”」を「Workshop: Chinese Language and its surroundings」で、(3)「一个表示{圓}的詞族」を「日本中国語学会関西支部例会」でそれぞれ発表した。(1)は里耶秦簡にみえる「脳」の異体字と苗語のイネを表す語との関係性を論じたものである。(2)は睡虎地秦簡にみえる「襄」という字と苗瑶語にみえる穂を表す語との同源・借用関係について論じたものである。いずれも秦簡にみえる穀物に関するものである。 研究論文としては、(1)「《漢簡語彙考證》訂補(四):訊 」,『簡帛網』、(2)「構擬上古音*Kr-:以《安大簡》「luan」為例 」,『聲韻論叢』、(3)「びん語中来自*m.r-和*ng.r-的来母字」,『辞書研究』、(4)Old Chinese “egg”: More evidence for consonant clusters, Language and Linguistics、(5)「略談“非”的上古音及相關問題 」、『雲漢』をそれぞれ発表した。(1)は秦簡、漢簡および楚簡にみえる「訊」の語義に関する論稿である。(2)、(4)は上古中国語の*-r-と複声母、円唇母音に関わる論文である。特に秦簡では「卵」と「luan」が構成要素の文字が見え、これを*Kr-という複声母の根拠の一つとしている。 秦簡通仮例については令和5年度以降に発表するほか、上記学会発表の(1)(2)(3)も令和5年度以降にそれぞれ学術雑誌に掲載予定である。
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