研究課題/領域番号 |
18K12392
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研究機関 | 大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所 |
研究代表者 |
横山 晶子 大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所, 言語変異研究領域, 特別研究員(PD) (40815312)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 言語移行 / 危機言語 / 琉球諸語 / 沖永良部 / 言語生態 / 言語復興 / 社会言語学 / 質的調査 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、琉球沖永良部語を事例に、危機言語が話されているコミュニティにおいて、伝統的な言語から現在の支配的な言語に移行した背景を、言語生態系の変容に着目して明らかにすることである。今年度は、沖永良部島における言語移行に関する先行研究を整理し、沖永良部島国頭集落の30代~90代の9名に対するインタビュー調査を行った。その結果、以下のことが分かった。(1)方言禁止教育:学校において方言の使用を咎める教育は、①本土への出稼ぎが始まった1907年前後、②奄美群島が日本に復帰し、本土への就職が増加した1953年以降の2度行われ、2回目の方言禁止教育は1970年代後半~1980年に収束した。(2)家庭内使用言語:昭和30年代以前生まれの被調査者の家庭では、親→子(本人)への使用言語が方言だったのに対し、それ以降の被調査者の家庭では共通語だった。昭和40年代以前生まれの被験者の親同士は方言で会話していたのに対し、それ以降の被調査者の親同士は共通語で会話していた。(3)集落内婚:昭和20年代以前生まれの被調査者は、集落内婚が主流だったと答えたが、それ以降は他集落との婚姻が増えたと答えた。(4)メディアの発達:ラジオは電気不足によってあまり流通しなかったが、1964年のオリンピック前後にテレビが導入された。こうした社会的背景と、沖永良部語の世代間継承がどう関連するかを、158回言語学会で発表する。従来の言語移行に関する研究は、年代による言語能力の推移を、被験者の内省に基づいて述べるものが主流であった。本研究は、言語実験によって明らかにした言語衰退の実態と、インタビュー調査によって明らかにした社会動態の変化を照合することで、より言語移行の背景の実態に近づけたと考えている。本研究は、危機言語の言語移行の背景を明らかにし、将来的に、言語の再活性化のための社会環境を整えることに貢献する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度は30代~90代の各年代へのインタビュー調査(計約27時間分)を実施し、言語移行の背景の概略をつかめた。またそこで得られた知見を、学会で発表する機会も得られた。このため、当初の計画通り進展していると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、協力者の人数を増やすことで、様々な意見を汲み取り、情報の精度を上げられるようにする。その際に、性差や職業などのバランスにも配慮して協力者を選定する。今後、特に解明していく必要がある課題は、沖永良部語の理解度が急激に低下する30代後半以下の人々が経験した言語生態やその変容を説明することである。
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費などの残額として少額が残った。次年度、備品の購入等に使用する。
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備考 |
調査中に得られた方言語彙をデータベースに追加。また、インタビュー内容を、今後「記事・コラム」に掲載する。
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