室町時代語資料として桃源瑞仙『百衲襖』を利用すべく、テキストデータを全巻にわたって入力することができた。訓点や本文の一部に未入力部分が残るが、このテキストデータによって本資料の本文調査が格段にしやすくなったと言える。近年は全体の画像がWebに公開されており、それ以前より研究の便が増していたとはいうものの、やはり写本を読み解くしか研究方法がなかったが、このたびの研究によって本文をテキストデータで読めるようになり、本文検索が可能になった。さらに、データ入力という作業によって研究代表者は言語や漢籍享受等について新たな研究のいとぐちを見出すことができた。 また今年度は、他の抄物との比較を通じて『百衲襖』の特質を探るべく、仁和寺・京都大学附属図書館・京都大学文学研究科図書館で実地調査をおこなった。コロナ禍の終息しない中においては遠距離の調査旅行を断念せざるを得なかったが、そのような状況でも質の高い資料を多く有する寺院・図書館で調査を実施することができた。特に仁和寺所蔵の抄物は従来、一部の研究者が断片的に利用するにとどまっていたが、今年度は『山谷詩抄』や『蒙求知抄』などについて詳細に調査することができた。現在それらについて論文を執筆中である。抄物は禅宗寺院を中心に作成されたことが知られているが、それがなぜ禅宗寺院でない仁和寺に所蔵されているのか等、享受に関しても示唆することが多いと思われる。京大附属図書館では『百衲襖』の伝本3種を実見することができ、同文学研究科図書館では寿岳文庫を悉皆調査した。 今後はより使いやすいようにデータを整備したい。本科研研究代表者が所属する研究会等でデータの試用版を提供し、利用者からのフィードバックを受けて校正等をおこなう予定である。将来的には、資料所蔵館の許可を得た上でより広くデータを公開することも考えられる。
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