研究課題/領域番号 |
18K12409
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
三上 傑 東北大学, 高度教養教育・学生支援機構, 講師 (60706795)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | Strong Uniformity / 素性継承システムのパラメータ化 / 文法的一致 / 通時的研究 / 共時的研究 |
研究実績の概要 |
平成30年度は、Strong Uniformityと素性継承システムのパラメータ化の観点から自然言語の普遍性と多様性を捉えた場合に得られる理論的含意や、語用論的要素の統語操作との関わり方に関する言語間変異について考察した。 英語の統語システムを見る限り、定形動詞は主語要素との間でPhi素性一致を起こし、主語要素はTP指定部へ義務的にA移動するなど、統語操作の適用に語用論的要素が関与する余地はないように思われる。しかしながら、日本語を見てみると、焦点素性によって誘発されるA移動タイプのスクランブリングが存在していたり、話し手と聞き手の関係性やポライトネスが深く関わる尊敬語化現象にPhi素性一致現象の特性が観察されたりするなど、統語操作への語用論的要素の関与を示唆するような言語現象が数多く存在しているのがわかる。 本研究では具体的に、当該理論的枠組みから得られる二つの理論的予測(1.焦点卓越言語では、CからTへ焦点素性が継承されるため、その後の一致操作とA移動操作の適用に焦点素性が関与する。:2.焦点卓越言語では、Phi素性がCに留まり続けるため、CP領域内でそれを介した文法的一致現象が生じる。)に基づき、これらの言語間変異について統一的な説明を与えた。 また、焦点素性によって誘発されるA移動タイプのスクランブリングや尊敬語化現象の存在を手掛かりに、日英語対照による比較統語論研究を発展させ、多言語のデータに基づく言語類型論的分析の可能性についても提示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、自然言語における文法的一致の普遍性に関して、Miyagawa (2010, 2017)により提唱されているStrong Uniformityと素性継承システムのパラメータ化の枠組みの下、通時的観点と共時的観点の両方から検討を加え、その本質に迫ることである。 この最終目標に向けて、平成30年度は焦点卓越言語に分類される日本語の文法的一致現象の分析可能性について、A移動現象や主語尊敬語化現象の存在を手掛かりにしながら考察を行った。そして、当該理論的枠組みが日本語のみならず、他言語における文法的一致現象の分析にも応用可能であることを示した。 本来の研究計画では、当該年度は統語構造の通時的変化に関する考察を進めることとなっていたが、これまで文法的一致の議論に取り込まれることのなかった様々な言語への本分析の応用可能性を提示することで、本研究で捉えられる言語現象の範囲を大幅に広げることができたということを考えれば、この点における進展も本研究の最終目標の到達に向けた大きなステップになると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度の研究成果と本研究全体の目標に鑑み、今後は以下に示した方策・観点で研究を推進していきたい。 1.日英語の統語構造における変化過程の精緻化。具体的には、Mikami(2017)で提案した二つのタイプの焦点卓越言語を含む自然言語の新分類の下、日本語の統語構造が「強い」焦点卓越言語から「弱い」焦点卓越言語にパラメータ変化したという仮説について、その妥当性を立証する。また、英語における統語構造の通時的変化についても、自身のこれまでの研究により、後期中英語期に焦点卓越言語から現在の主語卓越言語へのパラメータ変化が起こったということを明らかにしているが、当該年度においては、そのパラメータ変化以前の古英語と初期中英語に注目し、日本語における通時的変化と同様に、英語の統語構造も「強い」焦点卓越言語から「弱い」焦点卓越言語にパラメータ変化を起こしたという仮説を立て、その妥当性を立証する。 2.本研究の理論的意味合いの考察と他言語への応用可能性の立証。平成30年度に実施した自身の研究により明らかになった多言語への応用可能性について、さらに幅広い現代語を対象とした比較統語論研究を遂行する。具体的には、本研究が提示した自然言語の三分類の下、それぞれの言語タイプが示す特性と比較・対照しながら、屈折が豊かな印欧諸語やCP領域での一致現象を示すバンツー諸語、日本語のように一致現象を示さないとされる言語等、文法的一致に関して様々な特性を示す言語の位置づけについて捉え直す作業を実施する。
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