研究課題/領域番号 |
18K12428
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
中野 祥子 山口大学, 大学教育機構, 助教 (90803247)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 異文化適応 / 在日ムスリム留学生 / 異文化接触 / 異文化葛藤 / 異文化間教育 / 対処法略 / 困難 / 縦断研究 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、日本に留学するムスリムの異文化適応像を解明し、学際的発想で、異文化間教育に心理学的要素を組み込んだ独自性の高い教育セッションを創ることである。 平成30年度は、これまでの質的予備研究で明らかになった「併存型適応像」を、量的研究に展開した。具体的には、質的予備研究の知見を基に適応の指標を検討し、併存型異文化適応尺度の開発を意図した質問紙調査を開始した。 また、縦断的視点から異文化適応過程の解明を試みるため、縦断的面接調査を行った。追跡調査を行うことで、彼らの認知・感情・行動の変容を把握し、ムスリム留学生の困難への対処法略の時間経過に伴う変容や、ムスリム女子留学生のスカーフ着脱をめぐる葛藤と価値の変容について分析を行った。 加えて、ムスリム留学生の場合、食の戒律による困難が初期の異文化葛藤として特に問題になることから、来日後の食の文化受容について焦点を当て、質的な調査と分析を行った。 最後に、最終年度の研究課題となる異文化間教育教材「ムスリム留学生むけ文化アシミレーター」の日本人版の改良を行った。つまり、ムスリムの価値観や行動様式について日本人側が学習する教材の表現を整え、より多様な回答がうまれるよう改定した。ホスト側に対してムスリムへの理解を促すことはムスリム留学生の異文化適応を進めると考えられる。最終年度には、ムスリム留学生を対象とした、日本人との交流のための文化アシミレーターを作成する。対ホスト版と対ゲスト(ムスリム)版をセットにし、両者の視点から異文化摩擦の事例について考えることで、より柔軟で深い理解の獲得が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
在日ムスリム留学生の適応像を測る尺度開発のための質問紙調査は、予定通り開始することができた。しかしながら、現時点でのデータ数は90であり、目標としていたデータ数300を下回っているため、現在も調査を継続している。その意味で計画よりやや遅れをとっている。 一方で、縦断的研究については、予定通り面接調査を重ね、分析を行っている。今後も継続する予定である。 異文化適応支援としての異文化間教育教材の開発については、平成32(令和2年)に着手する予定であるが、その前段階としてホスト側の異文化理解を促す文化アシミレーターの作成と改良をすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
量的調査に関しては、引き続きデータの収集を行う。異文化適応尺度の信頼性と妥当性の検討が終わり次第、平成31(令和元)年度の計画である、併存的適応像のモデル化と属性と諸要因の複層的影響を検討する。具体的には、ムスリム留学生300名に質問紙調査を行い、併存型適応の説明モデルの構成要素に、作成した併存型適応感、葛藤への対処方略、文化受容志向、宗教観、滞日年数、日本語力、出身国、性別を入れ、各要因の適応への影響を検討し、適応モデルの適合度を検証する。 縦断的調査に関しては、引き続き異文化適応過程における認知・感情・行動の変遷を詳細に追っていく。具体的には、複線経路・等至性アプローチを用いて葛藤から適応像確立までの機序と分岐点を解読し、適応像の多様性の類型化を行う。併存的適応尺度の開発ができ次第、質と量の両面から、縦断的な検討を行う。
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