本研究は、漢字の音符(「洗」の「先」に相当する部分)の機能を学ぶことが、非漢字圏学習者の漢字学習に貢献するか、さらには未習漢字の読み推測につながるかを、実験により検証した。 非漢字圏学習者の漢字学習が困難である要因として、字形の複雑さに起因する認知的負荷が挙げられる。これまで認知的負荷を減らす必要性は広く認識されてきたが、認知的負荷を削減する方法に関しては、長年議論が続いている。漢字は表意文字であるため、意味と字形を中心に教えるべきだという考えは強い。意符は積極的に教えられている一方、音符を教える意義については音符が発音の推測に役立つとは限らないことから、教えることに消極的な意見も強い。 本研究は、Baddley(2000)の作動記憶モデルに基づき、音符の知識が漢字処理時の認知的負荷を下げ、記憶定着に貢献するという仮説を立て、音符が発音の推測に役立つ漢字と役に立たない漢字それぞれの学習効果を測定した。また、読み・意味・字形の3要素の提示の仕方により、学習効果が異なるかも測定した。結果、音符が発音の推測に役立つ漢字は、そうでない漢字と比較すると意味も読みも定着しやすいこと、また漢字の3要素は学習者に同時に提示することで、記憶に残りやすくなる傾向を確認した。さらに、新出漢字の意味・読みの記憶保持と未習漢字の読みの推測に貢献する要素を、多重回帰分析によって測定した。その結果、新出漢字の記憶保持に最も貢献する要素は音読みの既存知識で、未習漢字の読み推測に最も貢献する要素は、漢字全般に関する既存知識であった。 漢字の構成要素である「音符」を学ぶ効果が高いという本研究の結果に基づき、非漢字圏学習者の漢字学習の効果を高めるには音読みの知識を高めさせること、積極的に音符の機能を教えることを提案する。
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