2019年度は、前年度に収集したデータの文字化と分析を主に進めた。分析で特に注目しているのは、ディスカッション中の修復シークエンスである。日本人学生と留学生による国際共修教育の場面では、有している文化や知識をディスカッションにより交換しながら、共に学ぶことが期待されている。そのような学習場面では、文化的背景を共有していないことが、ある意味で期待されているといえる。研究者が現在注目しているのは、そのようなディスカッションにおいて、固有名詞の知識の有無が焦点化されるシークエンスである。つまり、ある固有名詞(地名や大学名など)を知っているかどうかが、グループ内で前景化する場面である。現在そのような場面において、日本人学生および留学生がどのような手続きを踏むのか、会話分析(Conversation Analysis)の方法に則り、分析を進めている。それについては、第2回会話分析研究会及び社会言語科学会第44回大会で、成果を発信することができた。 研究期間が残り2年あるので、今後は修復シークエンス以外でも「母語話者であること」「日本人であること」「留学生であること」などが志向されている連鎖を、分析対象に含めることができればと考えている。特に取り組みたいと考えているのは、「日本人は~」や「○○人は~」「日本では~」という質問から始められるシークエンスである。相手のカテゴリーを規定しながら産出される質問が、ディスカッションに何をもたらすのか、分析を進めていきたい。
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