前年度までにデータの大まかな分析は終わらせていたので,延長した1年間(2022年度)は論文の執筆と投稿にあてた(論文は現在査読中).特に注目したのは,国際教習教育のディスカッションの場において,「日本で○○することは失礼ですか?」などの国事情について問う質問から始まる,質問応答連鎖である.報告者のデータでは繰り返し,そのような質問に対して第一応答者が応答の産出中に,第二応答者の応答を引き込むという現象が観察された.論文では,上記のような「引き込み」がいかにしてなされているのか,またそうして「二人が答える」ことにより,話者らが何を達成しているのか分析・考察した.「引き込み」達成の資源としては,視線の移動,知識状態への期待,発話中の応答TCUの投射可能性などが記述された. 知識は話者らの社会的カテゴリーと強く結びついており,誰がどのような知識を有しているのかということに対する期待は,相互行為の中でしばしば表示される.分析対象とした「二人が答える」質問応答連鎖では,日本事情についての知識を共有すると規範的に期待されている二人が,その共有されている知識を一つの応答として産出する,ということがなされていた.そのように特定の国の事情についての知識の共有を,それを共有していない相手に対し実演(demonstrate)することで,担っている文化が参与者間で異なることが示されている.つまりここで局所的に,異文化性が達成されていると記述できた.
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