系統の離れた言語は文構造に加え節連接の方法も異なることが多い。その違いを学習者の母語と対照させ明示的に指導すれば、複合的な命題をより端的に外国語で表現できるという予測のもと、本研究に着手した。手順として、初年度は複文構造を生成統語論の枠組みで比較し、日本語を母語とする英語学習者の複文の誤りを観察した。続いて次年度は、複文の明示的な文法指導を行い、普遍文法を仮定する第2言語習得モデルに沿って複文の習得が促されるか検証した。 最終年度はその前年度に構造分析を終えた従属節(特に関係節や時の副詞節)を引き続き扱い、学習者コーパスを用いた誤り傾向の予備調査を踏まえ、日本人大学生を対象とした明示的な文法指導を実施した。3種類のタスクでそれぞれ統語、形態、意味の知識の定着度を測定したところ、意味解釈に比べ従属節の統語と形態に関する知識(語順や適切な節標識や動詞形態の判断)は習得が困難であり、統語環境(文中のどこに接続要素が現れるか)や習熟度などの要因による習得への影響が顕著に見られた。 普遍文法に基づく第2言語習得の観点から、節(命題)が句や別の節を修飾する構造が普遍的であれ、母語でその修飾構造のための語彙を欠く(素性群が不活性である)場合、第2言語で修飾構造の語彙を習得し新たにそのための機能範疇を活性化させる必要があるため、複文の習得は困難を伴うと考えられる。また、明示的指導については、先行研究の指摘と同様、対照分析的な文法項目の理解を伴う方法であるため、習熟度が低すぎる学習者には効果が期待できないと考えられる。継続研究課題では近年の生成文法理論に基づく言語習得研究を応用し、今回の期間中に始めた文法テキストを完成させ、明示的指導の方法やその限界、そして普遍文法と母語・第2言語の相互干渉の仕組みをより具体的に検証する。
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