研究課題/領域番号 |
18K12459
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研究機関 | 北海道教育大学 |
研究代表者 |
鈴木 健太郎 北海道教育大学, 教育学部, 准教授 (40757134)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 意図的語彙学習 / 意味的透明性 / 語源学習 |
研究実績の概要 |
2020年度は2019年度に実施した実験データの再分析を行った。具体的には,語源学習において形態素の既知性に基づいて注意の志向がどのように異なるかを複数のデータを基に詳細な検討を行った。その結果,語源学習に用いられる形態素 (接頭辞,語根) が既知である場合,多くの注意を形態素の形式と意味のつながりに向ける一方で,それらが未知の場合には,通常学習のように目標語の語形と意味のつながり,さらに形態素の形式と意味のつながりに注意を向けていることが示唆された。また,この傾向は手がかり無し語彙テストにおいてのみ形態素未知条件が形態素既知条件よりも語彙テストの結果が高かったこととも合致する。これらの結果は,学習者が形態素の既知性に基づき,その後の語彙情報の想起 (テスト) に向けて必要なつながりに認知資源を配分していることがわかった。これらの結果から,未知の形態素を含む新出語に対し語源学習を行うことは,形態素と語全体の意味を関連付けるという語源学習の主要な認知プロセスに十分に従事できなくなるこため望ましくないと言える。この主張は先行研究でも言われていることではあるが実証データを基にその具体的な理由を示した点で意義のあるものであると言える。 また,語彙テストの得点における意味的透明性と学習条件の交互作用が見られ,形態素の既知性に関わらず透明性の高い語はよく保持されたものの,透明性による差は形態素未知条件において小さかった。このことから,形態素と語全体の意味的な関連性を見出すのが困難な透明性の低い語に対しては,通常の学習のように語全体の形式と意味を関連付けるような処理を同時に行うことが有効である可能性が示唆された。 上記の結果を認知心理学の理論の観点から考察し,論文の形としたものを,近々投稿する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルスの影響により学会発表や実験実施が困難であったため,新しい実験に着手することが困難であった。
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今後の研究の推進方策 |
今後の課題としては,(a) 語源学習が通常学習に比べて効果的なのか,(b) そうであれば意味的透明性はどのように関連しているのか,(c) 透明性によって語源学習中の学習者の注意がどのように異なるかの3点が挙げられる。そこで,2021年度は語源学習の効果を通常学習と比べるとともに,語源学習における学習者の注意を形態素の意味的透明性の観点から検証することである。具体的には,目標語を(a) 通常学習,(b) 語源学習 (透明性高),(c) 語源学習 (透明性低) の条件で学習し,語彙テストおよび学習時に注意を向けていたつながりに関するアンケートの結果を分析する。その際,これまでの実験の限界点として,学習に用いた時間が多くの学習者にとって必要以上に多く,実際の学習条件と比べて多くの注意を複数のつながりに対して向けることができた可能性があった。この点に関しては,予備調査で検討を行いながら学習所要時間を短くした上で実験を実施することとする。また,学習の効果だけでなく学習の効率性 (学習にかかる時間) も考慮することで語源学習の有効性を総合的に検討していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響により参加・発表予定だった学会出張の中止となったため。また,実験実施の遅延により英文校正費を使用しなかったため。 使用計画としては,心理言語学関連の書籍の購入,学会発表 (オンライン大会を含む),論文執筆における英文校正費や採点業務補助などの人件費に充てていく予定である。
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