研究課題/領域番号 |
18K12469
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
野澤 佑佳子 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 講師(任期付) (30737771)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 共通語としての英語 / 医療コミュニケーション |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、医療現場での日本人医師―外国人患者間の共通語としての英語(English as a Lingua Franca、以下ELF)での意思疎通の実態や問題点について明らかにすることである。平成30年度は特に医師側が患者側の発話内容や意図を正確に理解するために用いるストラテジーについて、主に診療データの病歴聴取部分の会話の書き起こしと分析を行った。研究成果については、4件の国際学会発表と1件の論文発表を行っている。 文献研究とデータ分析の結果、ELFでの診療面接においても、医師側が患者側の発話内容や意図を正確に理解するためには共感的理解の表現が不可欠であることが判明した。現時点での分析の結果、本研究のデータでは医師側が患者側への共感的理解を示す場合に、既存のELF研究が明らかにしてきた「相手の発話の反復」による理解構築の方法が多用されており、この方法が診療面接において有益である可能性が高いことが判明した。 さらに診療面接後の模擬患者から医師側への評価部分の分析を行うと、反復表現によって共感的理解が表現されているにも関わらず、医師側への評価がやや低いケースが存在することが判明した。評価が高いケースとやや低いケースの診療面接中の意思疎通についてさらに詳細な分析を行い、理解の構築方法について比較した結果、評価が高いケースでは、医師側が患者側の病状だけでなく、私生活での懸念など患者側から提供されるあらゆる情報について反復によって共感的理解を明確に示していることが判明した。一方、やや低いケースでは、患者側の病状については医師側が必ず反復によって共感的理解を提示し正確な情報を理解するものの、病状以外の情報については反復を行わず、その結果、診療に有益な情報を引き出すことができないケースも存在した。今後は反復以外の共感的理解の表現についても分析し、その影響について明らかにしたい。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は順調に進展していると判断されるが、何点かの予定変更が生じたため、この区分とした。まず、分析する会話データの種類について、当初は病歴聴取部分のみを扱ったセッションのデータを提供いただいたが、異なる意思疎通方法によってもたらされると考えられる診断への影響や患者側から医師側への評価への影響が読み取れなかったことから、診療面接のほぼ全ての要素を含むデータを追加で提供いただくことになった。この結果、患者側の反応がより明確に観察でき、評価が高いケースとやや低いケースを比較するという方法をとり、意思疎通の問題点について詳細に把握することが可能となった。次に、会話データの書き起こしについて、当初は問題となる部分のみの書き起こしを予定していたが、分析が進むにしたがって病歴聴取部分全ての会話を書き起こす必要が生じたため分析の予定に少し遅れが生じている。書き起こしについては倫理審査の規定の範囲内で、次年度にソフトの購入またはアシスタントの起用等も考慮している。最後に、医師側の意思疎通の方法についての定義付けについて、当初は相互理解と共感のストラテジーを別個に捉えていたが、文献研究や他の研究事例の調査を進めると、相互理解を構築するストラテジーが共感のストラテジーとして分析されるケースが多いことが判明した。このため、共感的理解の表現を分析対象とすることとなり、令和元年~2年にかけて予定していた共感の定義付けを行うことが急務となった。今後は文献研究により、共感の定義付けもさらに進め、分析に反映したい。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究課題の今後の課題は、主に次の3点である。(1)まず、進捗状況に記載の通り、令和2年度に計画していた共感的表現についても文献研究により定義付けを進め、分析を開始し、表現方法についてより詳細な分析を進めること、(2)患者側と医師側の共感的表現についての理解に齟齬が生じていないかどうかをインタビュー調査により明らかにすること、そして(3)会話データの書き起こしを終了し、インタビュー結果と会話分析結果の照合を行うことである。これらの調査により、患者側が求める共感的表現及び相互理解の構築を医師側がどの程度表現できているか、もしくは齟齬が生じていた場合、どのように改善策をとることができるかを検討したい。今年度は主に身体診察の場面における相互理解の構築についての分析を予定していたが、病歴聴取の場面と併せて、共感的表現を中心に診療面接全体のセッションの分析を行う必要があると考える。また、被験者へのインタビュー等を令和2年度に予定していたが、会話データの書き起こしが予定より遅れていることを考慮し、次年度中に実施する方向で調整を行っている。
|