研究実績の概要 |
本研究の目的は、言語文化の異なる話者同士の診療面接において、医師が共通語としての英語の意思疎通の中で患者に共感を伝えるための会話ストラテジーについて明らかにすることである。医師―患者間の診療面接の会話データについては医学部英語教育現場において医学部生と模擬患者の診療面接の録音データを提供いただき、分析を進めている。 本年は引き続き文献研究と診療面接の会話データの分析とインタビューデータの分析を行い、研究成果について1件の論文発表(書籍の分担執筆)及び1件の国際学会発表(国際語用論学会)を行った。本研究では、Hojat (2007, 2012)の定義に基づき、診療面接における共感(Empathy)とは医師側の認知的理解であり、必ずしも医師側も患者側と同様に感情的な状態にあることを共有するものではないため、SympathyやCompassionとは区別される。今年度文献研究及び14例の会話データの分析を進めたところ、以下の3点が判明した。1.本研究のデータにおいては、医学生の共感は診療面接が進むにつれてより明示的に表現されていく傾向があること2.特に病歴聴取の段階でUtterance Completions (e.g., Sacks, 1992, Cogo and Dewey, 2012)を用いて共感を表現していること 3.患者側の病状の身体的な辛さだけでなく社会的な背景に共感を示すことで患者の満足度が高くなること 特に1については、少数ではあるが英語母語話者のみを対象とした先行研究においても同様の傾向がみられるという報告があった。しかしながらなぜ後半に共感の表現が明示的になるのかということは明らかにされていないため、今年度はさらに詳細に分析を進め、どのような段階を経て共感の表現が変化するのかということについて調査したい。
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