研究課題/領域番号 |
18K12469
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
野澤 佑佳子 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 講師(任期付) (30737771)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 共通語としての英語 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は医療教育現場において医学生と外国人患者が共通語としての英語(English as a lingua franca, ELF)を用いて意思疎通を行うか、会話分析及び民族誌学的手法により、その実態を調査することである。これまでの診療面接における会話データの分析により、診療面接においては医師側が「認知的共感」を伝達することが協力的な診療面接及び相互理解の構築に大きく貢献することが判明した。そのため、認知的共感を伝達するために最も効果的な会話ストラテジーの分析を行っている。過年度の分析及び先行研究においては1)認知的共感表現は診療面接の初期段階では起こりにくく、面接が進むにつれてより明示的な形態で現れてゆくこと、及び2)認知的共感は病歴聴取の段階においてはUtterance completion (e.g., Sacks, 1992)の形態をとって表現される傾向にあることが判明している。2020年度においては、特に診療面接中盤の病歴聴取の段階で、医師側がどのようにUtterance completionを用いて認知的共感を示すか、またその表現がどのようにより明示的に発展してゆくのか、その過程を詳細に分析し、分担執筆の著書により1件の研究発表を行った。さらに、認知的共感が起こりにくいとされる診療面接の初期段階の意思疎通の分析を開始しており、この段階での協力的な意思疎通の構築に効果的な会話ストラテジーの解明を行っている。また、実際にELFを用いて海外医療機関で診療面接を行った医学生にインタビュー調査を実施しており、医学生が「共感」をどのように理解しているのか、その実態を解明するためインタビューデータの分析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2019年度末からのコロナ禍により、出席及び発表を予定していた学会や研究の打ち合わせがすべてキャンセルとなり、また出版のスケジュール等にも遅れが発生したため、予定より分析及び研究論文の発表予定が遅れ気味である。また、授業のオンライン対応や感染及び濃厚接触により出席停止となった学生のフォローを行う必要が生じ、授業の負担が増大したため、特にインタビューデータの分析が遅れている。2021年度は遅れているデータの分析をより早く進めるため、Transana等の機器の購入も考慮に入れたい。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度においては、1)診療面接初期段階の会話分析を終え、2)成果発表を行い、3)インタビューデータの分析も完了させるとともに診療面接の会話分析の結果との照合も行いたい。1)に関しては既に開始している分析で医師側の患者への反応(所謂response token)に変遷が見られることが判明しているが、一定の傾向を特定するには至っていない。さらに詳細な会話分析を進め、効果的に用いられる会話ストラテジーの特定を急ぎたい。また、インタビューデータの分析も急務である。「共感」はこれまで多分野で研究され、医療においても定義が様々であり、すべての医療教育現場で共有されている確立された定義はいまだ存在しない。そのため、実際に授業に参加した被験者である医学生がどのように「共感」を理解し実践しているのかを明らかにし、この研究における共感の定義を、その伝達に効果的な会話ストラテジーとともに提案し、教育的示唆を行うことが最終的な目標である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は成果発表を予定していた学会及び研究ミーティングがコロナ禍によりすべてキャンセルとなったため、旅費交通費の出費がゼロとなった。次年度は会話分析機器や先行研究及び会話分析、インタビューデータ分析の手法に関する図書を購入予定である。
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