本研究の目的は、共通語としての英語(English as a lingua franca、以下ELF)による診療面接において医師側に求められる意思疎通能力について調査を行うことである。本研究では特に相互理解の構築と共感の伝達に焦点をあて、意思疎通の実態や問題点及び解決策について医学部英語授業のご協力のもと、言語文化を異にする日本人医学生と外国人模擬患者の模擬診療面接における意思疎通において会話分析及びインタビュー調査を行った。データ分析に基づき検討を行ったのは以下の2点である。 1)医師側が患者側の発話内容や意図を正確に理解するために用いる会話ストラテジー 2)医師側が患者に与える印象に影響するとされる「共感」伝達のためのストラテジー 会話分析の結果、診療面接の初期段階においては双方が相互理解構築に注力し、復唱を多用する場面が多く観察された。診療が進むにつれて、ある特定の表現について医師側が復唱を行った場合、それが相互理解構築のみならず共感的意思疎通の構築にも寄与し始めることが判明した。また、初期段階おいてはこの復唱の表現が共感的表現としても機能しているが、診療面接が進むにつれ共感は発話完了のストラテジーという、より明示的な形をとることが判明した。 母語話者同士の理解構築や共感の表現はこれまでも研究されているが、非母語話者同士の用いる表現については先行研究がなく、また、診療面接が進むにつれて共感の表現がより明示的なものに発展していく過程をとらえたものも先例がないため、この2点において本研究の成果は大変意義深い。さらに海外臨床経験者にもインタビュー調査を行い、会話分析の結果を検証した。これらの結果についてはすでに一部を2022年度に著書(分担執筆)として発表した。その後分析をさらに進めた結果についても2022年度ELF国際学会で発表しており、2023年度中に論文として発表予定である。
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