令和4年度は、本研究計画の中で構築したフランス語学習者の縦断的な話し言葉コーパスを用いて、言語変異の習得過程についての研究を行った。具体的には、フランス語学習者の自然発話コーパスを観察することで、一人称代名詞jeの無声化、二人称代名詞tuの縮約、代名詞il(s)における/l/の脱落、否定辞neの脱落といったインフォーマルな変異形がどの程度使用されているのかを分析した。分析の結果として、インフォーマルな変異形の習得は個人差が大きいことも確認された。jeの無声化やtuの縮約のような音声的変異の習得は留学経験があったとしても難しいことが確認された。長期的な留学経験がない段階でも、学習者によってはインフォーマルな変異形に気づき、実際に産出できることも明らかになった。この研究成果について執筆した論文は、東京外国語大学フランス語研究室紀要『ふらんぼー』48号に掲載された。また、10月にはSamantha Ruvoletto准教授を招聘し、研究集会「コーパスに基づくフランス語習得研究とその応用」を開催し、言語習得研究の可能性について議論した。 研究期間全体を通して得た主な研究成果は以下の3点である。 ①教科書コーパスの構築を行い、フランス語の教科書や発音教本に反映される発音規範の分析を行った。最近の教科書では伝統的な規範に基づきつつも、実際に話されるフランス語の話し言葉の特徴も同時に提示されていることを明らかにした。 ②特にカナダのケベック州で出版された教科書の分析から、教科書へのインフォーマルな変異の反映方法を模索した。 ③縦断的な話し言葉コーパスに基づき、様々な変異の習得を観察することで、日本語を母語とするフランス語学習者の社会言語学的能力の発達がどのように進むのか、その過程を示唆した。
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